『氷の世界』というベスト・セラーをすでに記録したあと、拓郎は『明日に向かって走れ』、そして陽水はこのアルバムでフォーライフ・レコードからスタート。ちょうどフォーク・ソング改め、ニュー・ミュージック到来の頃。
シングル『青空ひとりきり』に見るファンキーなロックもあるが、このアルバムの素敵な点は、曲ごとのバラエティさにある。
①オープニングのイントロではクラシック・コンサートの始まる前の音から(ヴァイオリンによる調弦の4和音を陽水の声による多重録音で模倣)、②タイトル曲でヴァイオリン・ソロなどのクラシック風アレンジを施し(この曲は『帰れない二人』とともに素晴らしい作品です)、③対照的に『Summer』『坂道』ではリズム・マシンを効果的に活用、④『I氏の結婚』では夏のリゾート気分にひたれる。
また、笛の音が秋の風情を醸し出したり、<和>の風味をうまく<洋>とブレンドさせた音楽がこの一枚で楽しめる。アコースティックとエレクトリックのバランスも素晴らしい。
この時代は、多くのプレーヤー(演奏家)がアルバムの中でそれぞれの役を演じきっていたし、ミキサーの音に対する感覚もプロフェッショナルだった(たとえデジタル時代の今でも音楽表現を創造するのは人)。つまり、音楽とは卓越した演奏を聞かせてくれることがレコード作りでは当たり前の時代だったのだと。そういう観点では、クラシック音楽もポップスも同じ土俵であった。
リアル・タイムを知る人が懐かしむよりも、新しい世代あるいは今の安あがりでCDを消耗品化させている業界に【琴線に触れる音とは?】【音楽に対する警鐘(単に売れればそれでいいの?)】このことを教えてくれる一枚。ツールだけではこのような音は決して出せないのです。