魅力的な背中の複雑な秘密
★★★★☆
この小説のモデルだった方が解説のなかで、
この小説の『彼』は潮騒の主人公のような瑞々しさがない、と自身がモデルだった自嘲を込めて言ってますが、『彼』にも新治とはやや違いますが、野生と社交が混ざった神秘があり、ラストのペーソスも良く、なぜ複雑な彼なのかわかりました。安部譲治さんの意向で原稿の段階でカットされた挿話もあるようで、その挿話が最後の「背中の秘密」と関係あるのかなあ、と想像してしまいました。安部さんがお亡くなりになった後、カットのない完全版、複雑な彼の復刻を期待します。
輝いていた時代!
★★☆☆☆
これもある意味では、現在のある飛行機会社をめぐる騒動を見込んで復刻させられた作品なのでしょうか。名前のみ有名でこれまで読むことはなかった作品でした。時代は昭和40年、やっと海外旅行が自由化されたころでしょうか。国際線も当時は羽田から出ていた時代です。そして当時昭和40年代前半はこの航空会社は確かに輝いていました。この時代に、海外の空港でこの航空会社のマークを見ると子供ながらになんともいえないナショナリズムの高揚とプライドそして安心感を感じたものでした。この航空会社に勤めるスチュワードがこの作品の主人公です。ただし作品は、モデルであった安部氏が「解説」で述べている通り、三島の作品とは思えないほどの失敗作です。三島の旺盛な海外取材の成果は作品のディテールにはたしかに反映されています。そして主人公の経歴はそれ自体で魅力的なものです。でもこれは「事実」の魅力であって、必ずしも作品の魅力ではありません。あってから恋に落ちるまでに、二人の間にはわずか数時間の直接的な邂逅しかないというのは、ロミオとジュリエット並みの凝縮された時間なのですが、登場人物はどうにも現実感が欠けているようです。主人公の相手となる冴子の行動と人工的なパーソナリティも最後まで魅力に欠けるものです。そして最後の結末も不思議な違和感を与えるものです。それまでの世界をまたに駆けた恋愛騒動から、急に当時の政治情勢(ヴェトナム戦争と学生運動か?)が表に出て来るのです。これにはまだ見ていませんが、映画複雑な彼 [DVD]もあるようです。
三島お得意の通俗小説
★★★☆☆
三島由紀夫の純文学は読むに耐えないが、戯曲や通俗小説はうまい。これはそのうまい通俗小説の、恐らく最後のもので、1966年1−7月の『女性セブン』に連載された。モデルは若き日の安部譲二で、解説も安部が書いている。角川文庫の復刊はこの解説を引き継ぐのだろうか。相変わらず、ラディゲに学んだ男女の会話を主としてうまいが、後半、いったん譲二と冴子が思いあう仲になってからは、少しだれる。
三島由紀夫の中では変わった作品
★★★☆☆
柳原良平氏による表紙のイラストに惹かれて手に取った。
安部譲二氏をモチーフにした作品だという。「昔よくテレビに出てて、豪快に笑うカタギではなさそうなおじさん」という印象しかなかったのだが、これを機にウィキで調べてみたらすごい人…
この小説には27歳までのことしか書かれてないが、それでもすごいエピソードの数々。このように「引き寄せてしまう人」てのはいるんだろうな。
「普通の、育ちの良いお嬢さん」である冴子の視点から描かれているのが、また憎い。彼に翻弄されまいと必死で健気な様子が、「子供じゃないんだから〜」と思う一方、彼の日本人離れした異端ぶりと、まじめさを引き立たたせるのに役立っていると思う。
素敵なラブストーリーでした・・
★★★★☆
三島由紀夫の本を今読んでいるところなのですが、久々に数年前に読んだこのラブストーリーを思い出しました。
読んだのが確か中学生の頃だったので、題名さえ忘れていて、今見つけた次第です。
こちらの本は三島作品としてはあまり著名ではないようですが、私はこの作品が一番好きです。
三島さんの作品にしては珍しく現代的なラブストーリーでヒロインの冴子という女性も生き生きと描かれていて、こういう作品も書けたのだなと意外でした。
ただやはり魅力的なスチュワートは彼が描いたからこそ私も魅了されたのかもしれません。