不倫による心の葛藤の描写がお見事!
★★★★★
本小説は、高貴で貞淑な心を持つ郁子という亭主持ちの女性の、不倫と悲劇を描いたストーリーだ。郁子の過ちを犯すまいとする良心と、不倫相手の楠を愛する心との、激しく葛藤し揺り動くさまが、三島らしい言葉の連なりで見事に描かれている。
そして、ラストはその不倫による愛が強くなりすぎたため、神が郁子を罰するかのごとく、悲劇で幕を閉じる。
この小説を読んでいて、一昔前にある芸能人が「不倫は文化だ」と言って、茶の間を騒がせたのを思い出した。
ルールに縛り尽くめにされた現在の社会では、本能はその縛りに圧迫され、誰もが不倫という行為は汚らわしいものだという固定観念に囚われている。
その風潮に流され、当時の私も不倫を正当化するようなその発言を見下し、まさに倫理を冒涜する、えげつない行為という捉え方をしていた。
しかし年を重ね、私も多くの人生経験を歩み、そしてこの小説に出会い不倫に対する見方が変わった。
郁子、楠、そして不倫を正当化した芸能人のような人間というは、そうした社会の縛りから抜け出し、好きな人には愛を注ぐ生き方ができる、本能を大事にする魅力ある人間なのである。
意外な結末
★★★★★
楠に強く惹かれながらも、その気持ちに抗おうとする郁子の気高さと無垢が、
三島由紀夫の繊細でアイロニーに満ちたタッチで描かれ、徐々に郁子の純粋な愛が結晶化していく・・
ラストの郁子がせつなかったです。
変なプライドの持主の心理
★★★★☆
「変なプライド」を持っている人のお話を、美しく描いてくれています。
変に傷つきやすく常に予防線を張った行動をとりがちな私には、
気持ちや思考が理解しやすく、思わず噴き出してしまうシーンもあり、
サクサク読み進められました。
このタイプの方には、苦笑してしまうシーンもいくつかあるのではと思います。
違う方々には、面倒千万(本文から引用)なそんな人たちの心の中を少し覗ける本だと思います。
村松郁子と夫の村松恒彦の友人、楠はお互い恋に落ちます。
しかし、この二人いわゆる「変なプライド」の持主なため、
傷つくのを恐れ、自分の気持ち以前に言い訳を考えてから行動します。
だから、素直になるタイミングも合わず、自分の気持ちが傷つけられれば
復讐に燃える…そんな天の邪鬼二人の心理状態を描いた物語です。
卑俗な出来事が、二人の愛に冷徹な崇高さを与え悲劇に進ませますが、
その絶妙なアンバランスさに、一見麗しくも発端はお間抜けな失敗なのだというブラックユーモアも感じます。
本当に愛する人に素直になれないがために、歪みながらもプラトニックな愛が
成立してしまうという皮肉もキラリとこめられた一冊です。
すべてはこのラストのために・・・
★★★★☆
195ページという短い小説ながら、前半で挫折しそうになりました。
なぜ郁子は、こうまでお高くとまっているのか、楠の胸に飛び込めばいいのに
試したりはぐらかすようなことばかりして・・・と主人公に感情移入できなかったからです。
が!こんなラストが待っていようとは・・・。
すべてはこのラストのための長い伏線だったんですね。
匂い立つような美しい文章に酔わされ、読後は感動のため息でした。
もちろん(?)解説は小池真理子さんです。