こういう良い本がもっと増えてくれればいいのに。
★★★★★
柳田國男の『遠野物語』が格式高い単行本の形で出た。表紙はビニールではなく紙性で、最初は耐久性に問題があるのではないかと思った(表紙が紙でできていると、やぶけることが心配)が、実際持ってみると比較的しっかりした紙を使っているようで、摩擦にも強そうだ。製本も、ただ接着剤で止めているだけの安い作りではなく、しっかり糸で括って強度を増している。大和書房と製本屋はいい仕事している。栞は美しい赤。栞にまで気をぬいていない。グッドジョブである。
さて内容だが、帯にも書いてある通り、遠野の原風景を切り取った口絵写真が最初に収められており、今から遠野のお話をのぞくにあたってそこがどんな土地柄なのか、雰囲気を味わせてくれる仕組みになっている。さすがは豪華愛蔵版である。写真にもきちっと解説が加えられている。岩手県の、遠野を中心にした地図もいいかんじについている。ぬかりない本作りに感謝である。
文章は現代語で書かれており、旧漢字仮名交じり文体が苦手な人でも難なく読める。読むのが難しい漢字には読みがなが振ってあるし、それになんといっても驚くべきは注の丁寧さである。その丁寧さ、詳しさゆえに文字が少々小さくなっているが、内容に関して他の本を参考にしなくてもいい。この本一冊で全部解決できるほどまで詳しい解説になっている。うん、著者もいい仕事している。
日本民俗学の祖とよばれる『遠野物語』を安い文庫本なぞで済ませるのはあまりにも惜しい。この濃い中身を考えれば決して高くない。この際、この豪華愛蔵本を買って一生ものとして手元に置いておいてはいかがだろうか。