三部作完結編
★★★★★
本の話を聞くのは楽しい。信頼おける著者が、たっぷりページ数を費やして
書いてくれていれば尚更である。私淑している何人もの先達に教えられ、新
たな本を知り、実際に手に取り、読んでみて(場合により途中で投げ出し)
読書の世界を広げてきた。
四方田犬彦氏は、私にとって、そういう読書における導き手の一人である。
四方田氏の読書エッセイは三部作をなしている。
1.『読むことのアニマ』(筑摩書房1993)
2.『ハイスクール・ブッキッシュ・ライフ』(講談社2001)
3.『日本の書物への感謝』(岩波書店2008)
の三作である。その特徴は、一つ一つの作品の読書について、具体的な思い
出の記述があること・そして作品の詳細な梗概がつくことである。これらを
読んでいると、主人公の四方田少年になったつもりで本の世界に浸るという
贅沢を味わうことができる。
前二作でとりあげられているのは、トルストイの童話からレヴィ=ストロー
ス『悲しき熱帯』へ至る海外の作品であった。本作では、タイトル通り日本
の古典の再読がはかられている。選ばれているのは、『古事記』『万葉集』
『源氏物語』などだが、決して網羅的なものではない。テキストと昔の自分
との対話に、今の自分が再読という形で参加して、三者の再会を愉しむとい
う趣向の本である。
著者には次のような言葉がある。
「好きな書物を読むことは心躍ることだ。だがさらに魅惑的なのは、長い歳
月が経過して、心をひとたび忘却の河の縁に佇ませた後に、もう一度同じ書
物を読み直すことである。」
この言葉にハッとさせられた人には、強くおススメできる一冊です。