旅人、《愚者》: タロット 大アルカナの物語 (魔女のアルカナ文庫)
価格: ¥0
★シリーズ全巻をまとめた、合本版が出ています。★
▼ 『旅人、《愚者》 タロット 78枚の物語』
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《悪魔》はちょっとおばかなとっつあん?
《力》はのほほんとした巨人女?
《吊された男》は修行フェチの陽気な男?
占いの道具として今やかなりメジャーになったタロットの世界を、ひとり飄々と旅する《愚者》の姿。
22の世界を股に掛け、悩みながら、茶化しながら、白い犬を相棒に、とある目的のために《世界》を目指す。
ロックンロールイベントの占い師として実践を積んだ著者が贈る、新しいタロットの物語。
タロットを知らない方にはひとつの掌編連作小説として。
タロット占い師さんには一風変わったタロット世界の指南書として(?)、役立つかもしれない一作。
パメラ・コールマン・スミスの絵柄を挿し絵として拝借し、22枚の大アルカナの世界を描きます。
※画像はすべて日本で著作権が切れ、パブリックドメインになっているものを使用しています。
▼ブックトレイラー
https://www.youtube.com/watch?v=5EYJ7ifsrV4
▼タロットシリーズ第二弾 『黒猫は《ワンドのクイーン》 タロット コートカードの物語』
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▼タロットシリーズ第三弾 『《杯》は満ちているか タロット小アルカナの物語【1】カップの物語』
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▼タロットシリーズ第四弾 『《棒》を掲げよ タロット小アルカナの物語【2】ワンドの物語』
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▼タロットシリーズ第五弾 『実りの《金貨》 タロット小アルカナの物語【3】ペンタクルスの物語』
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▼タロットシリーズ第六弾 『災禍を絶つ《剣》 タロット小アルカナの物語【4】ソードの物語』
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■目次
・《愚者》
・《魔術師》
・《女教皇》
・《女帝》
・《皇帝》
・《教皇》
・《恋人》
・《戦車》
・《力》
・《隠者》
・《運命の輪》
・《正義》
・《吊された男》
・《死神》
・《節制》
・《悪魔》
・《塔》
・《星》
・《月》
・《太陽》
・《審判》
・《世界》
・《愚者》
――――本文より(《愚者》 冒頭)
たぶん、短い道のりでも平坦な道のりでもなかったと思う。それなのに、思い出せない。いや、思い出さないというべきか。空は不自然なほどに明るく、陽は近い。夜明けか。夕暮れか。それともこの場所があまりに空に近すぎて、中天のそれが低くすら見えているのか。
確かにここは山間の場所らしい。周りの山々には樹々が茂っているらしく、青々と霞んで見えるのに、さっきから革の長靴に感じる地面はごつごつとした岩肌だけだ。
「すっかり擦り切れちまった」
呟く彼の広げた両腕。長袖だったチュニックの広がった袖口は、ぼろぼろに擦り切れて見るも無残。白い肌着がすっかり丸見えだ。
「お気に入りの服だったってのに」
しかし、彼は気づいていない。もしも足元を見れば、その柔らかい革の長靴には傷一つついていないことを。この岩だらけの山道を共に歩いてきたとは到底見えない、まるで下ろしたてのような綺麗さ。
彼は旅人。
山歩きには似合わない軽装。荷物といえば、左手の花と右手に持った長い棒の先に結えつけた、小さな革の鞄のみ。長い真っ赤な羽飾りなどを帽子につけて、いかにも洒落者だ。
キャン!
じゃれるように足取りの軽い白い子犬が一声吠える。彼の目は一瞬その犬に向く。しかし、すぐにその視線は戻される。照りつける陽を背に、果てしなく明るい空に向かう。
ざりっ。
踏みしめた左足。
「ま、行くっきゃない、か」
独りごちる。
がらっ。
大きく踏み出した右足の先になにかが崩れる音。
次の瞬間、崖の上には誰も、なにもおらず、なにかがあった形跡すらなかった。
陽光だけがただ、照りつけている。
――――――
読了にかかる時間 約94分 (500字/分の場合)
文庫本換算 約123ページ(39字×15行)