高嶺の花
価格: ¥0
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隣町のシネコンは平日の夜ってこともあってガラガラだった。俺たちの選んだ映画は他に数人しか客がいなくて、座席も離れていた。俺たちは後ろの方の座席で並んで座り、映画を見た。しばらくすると暗がりの中で彼が手を握ってきた。そうして頭を肩にもたせかけてきた。俺は映画どころじゃなくドキドキしちまったが、最後には慣れてきて、すげえ気分がよかった。
まるで本物の恋人同士だった。
映画を見た後は終夜営業のファミレスに寄ってメシを食った。そうして映画の感想を言い合った。他の映画のチラシを彼がもらってきていて、次はこれ見ようか?とか、恋人っぽい会話をした。町に戻る途中で車を停めてキスしても嫌がらなかった。軽トラの中で俺たちはセックスをした。やった後も彼は何度もキスをせがんできた。まるで本物の恋人同士のように……。
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ハッテン場で何度も見かけていたモテ筋の男。すごくタイプだが金をとる「プロ」で、田舎町に暮らす八百屋の息子である主人公にとっては高嶺の花だった。しかしその「プロ」の彼とそっくりな男が近所の古本屋で働いていることを知って……。
初出『バディ』。単館上映映画っぽい読み切り小説。田舎町を舞台にした、ちょっと夢のあるお話。八百屋と古本屋の恋物語。