どちらかと言えば記載内容が知りたい
★★☆☆☆
絶賛の声があるようだが……はたして。
まずこの本は明治期の巨人・南方熊楠のキノコ図譜を芸術作品として扱っておられるという点が一点。つまり、学術的に価値が高いにもかかわらず、その点についてはあまり触れられていないことになる。したがって、キノコに詳しい者が資料のひとつとして利用するのは難しい。なにせ熊楠の手書きの記載が英文なので、ざっとした内容でも訳してもらえると助かったのだが。
またこの図譜を描いたのが熊楠でなかったらどうだったろうか、という点がもう1点。キノコの描画そのものは、比較的ラフに描かれているものが多く、芸術として見るならばそれほど優れているものとは思えない。少なくとも『原色日本新菌類図鑑』(保育社)の本郷次雄氏によるスケッチの方が上と見る。はたして熊楠のネームバリューがなければ評価されたのかどうか。
熊楠ファンは買い、キノコファンは見送るが吉。
巨人の息吹を感じさせる一冊
★★★★☆
日本の歴史にその名を残す
「知の巨人」南方熊楠。
彼が生涯情熱を注いだ菌類研究。
この研究だけでも莫大な記録が残されているが、
本書ではその一端を覗くことができる。
水彩画によるスケッチと詳細な書き込み、
これだけで芸術作品と呼ぶにふさわしい。
快挙
★★★★★
本屋でこの本を見たときは眼を疑った。脳がじーんとなって、気づいたら購入していた。高いのに。
さて、南方熊楠といえばもちろん粘菌である。半年前に出版された粘菌の写真集「粘菌―驚くべき生命力の謎」は、写真は素晴らしいものの、熊楠に対する記述が少なくて非常に不満だった。だが、この本は全部、熊楠。粘菌についてではなく、きのこについてだが、手書きのフィールドノートが120ページも載っている。カラーで。満足。
そのノートが素晴らしい。一見雑然としているが、手書きの絵があったり、乱雑だが緻密に何か書いてあったり、英字新聞の紙で作った袋がくっついていて、「毒」とか書いてあったり、もう、見ていて飽きない。この本は現在ワタリウム美術館で開かれている展示を記念して出版されたもので、主催者側は熊楠のノートを「アート」としてみているようだが、それでも許せるくらい面白い物になっている。(なお、「毒」とは、それが書かれた袋には虫除けのヒ素を塗ってあるという意味)
ちなみに、読売新聞では川上弘美さんがこの本の書評を書いている。彼女も気に入ったようだが、これほどこの本の評者として相応しい人はいないんじゃないかな?
★標本、図譜、知識の壮大なコラージュ★
★★★★★
●「誰かに観てもらうために描いた<絵>とは違うのです」が、本書の120枚におよぶ図譜は未掲載のものも含めて人類の財産であることに間違いはない。
・ドローイングとしての菌類図譜
・図譜
・南方熊楠の菌類研究と彩色図譜
・くさびらは幾劫へたる宿対ぞ−熊楠ときのこ
・熊楠の菌類図譜を読む
●『宇宙万有は無尽なり。ただし人すでに心あり。心ある以上は心の能うだけの楽しみを宇宙より取る。宇宙の幾分を化しておのれの楽しみとす。これを智称とすることかと思う』
●これは単なる図譜ではなくアートである。いや、アート以上のものである。