大清帝国、「華夷一家」の栄光
★★★★★
ついに出た清朝史の歴史群像シリーズ。
王朝の創始から康熙、雍正、乾隆の繁栄を経て、清末の衰亡へと至る歴史の概説、皇帝とそれを取り巻く様々な人物たちの評伝、清朝の統治術、八旗制度についての説明など、清朝史の話題が盛りだくさん。
特に八旗制度については多くのページを割き、最新の研究成果を盛り込みつつ、図やイラストを交えてわかりやすく解説している。八旗制度は単純なように見えて、実はかなり複雑な制度だが、図やイラストを見れば一目瞭然。
清朝の統治術については、満洲族がトップに立つという原則は守りつつ、各民族や各地区の状況に応じ、内陸アジア世界の「ハーン」、東アジア世界・儒教文化圏の「皇帝」などいろいろな顔を使い分け、かつ硬軟をうまく取り混ぜた巧みな統治ぶりをわかりやすく解説。また、モンゴル帝国に類似した内陸アジア的な側近政治の構造にも触れている。
しかし、その背景にある思想面については紙幅の関係上深く掘り下げられていないし、清朝の統治階級である満洲族以外の諸民族、特に「藩部」の回部(ウイグルなど中央アジア諸民族)、チベットの動向についてももう少し補足が欲しかった。これらの問題については、石橋崇雄『大清帝国』、平野聡『大清帝国と中華の混迷』 、『清帝国とチベット問題―多民族統合の成立と瓦解―』、石濱裕美子『チベット仏教世界の歴史的研究』などを併せ読めばより理解が深まるだろう。
また、歴史群像シリーズの特徴である写真やイラストも豊富に盛り込まれ、紫禁城や八旗兵の再現イラスト、江戸時代の日本で描かれた『唐土名所図会』、そして清末の古写真をふんだんに引用することで、これまで文章から想像するしかなかった清朝という時代をビジュアルで理解できるようになっている。