地上では核戦争は自分が引き起こしたものと信じ込んでいる精神病の元科学者や、超能力を持つ身体障害者などのユニークな登場人物たちの人間模様が描かれます。設定が突飛な割にはストーリーは比較的淡々と進みます。希望を抱かせるようなエンディングも含めてディック作品としては異色作の部類に入りますが、なかなか楽しめる作品だと思います。
地球を周回する人工衛星内の男、核実験に失敗し憎まれる物理学者、超能力を持つ肢体の不自由な修理工、胎内にテレパシーを持つ弟を宿した少女と、登場人物だけをみるといつものディックらしい感じがします。
しかし現実が崩壊していったり、異世界が混入してくるといったディックお得意の脱現実的な所がなく、核戦争後の世界でのコミュニティを舞台とした「現実的」な世界が描かれており、それはそれで興味深いかなぁ。ミュータント化したねずみを追いかける電子式小動物捕獲器などユーモラスな小道具も見所。
これでサンリオSF文庫収録作で出ていないのは5冊、未訳のSF作品4作、主流小説5冊との事。残りも早く出るといいなぁと思いながら待つことにしましょう。