ステージマネージャーは、音楽家が最高の状態で演奏できるようにステージに送り出す役割を負っている。その「最高の状態」というのがくせ者で、緊張する音楽家をステージドアから舞台に送り出す役目だけではなく、楽器の搬入や楽屋の割り振り、椅子や譜面台のセッティングなど、仕事の幅はとてつもなく広い。コンサートを仕切るためになくてはならない役割ではあるが、舞台裏に隠れ、決して目立つことのないのがステージマネージャーなのだ。
宮崎は「クラシック音楽界の名物男」といわれるだけあって、ユニークなエピソードには事欠かない。ピアニストで指揮者のバレンボイムがアンコールを9回もやり、オーケストラの団員が不機嫌になった話や、死の1年前、病魔と闘いながら指揮台に上ったカラヤンの話など、宮崎が舞台に送り出したマエストロたちの興味深い逸話は尽きることがない。また、現代音楽上演の際の苦労など、ステージの見方が変わるような話も満載だ。
巻末には、サントリーホールの創立から現在までの3代にわたるステージマネージャーの鼎談が掲載されている。活躍の時代が異なる3名のステージマネージャーそれぞれの体験は、そのまま、日本のクラシック音楽界の歩みを追っている。(朝倉真弓)