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乱鴉の島 (新潮文庫)

価格: ¥746
カテゴリ: 文庫
ブランド: 新潮社
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舞台廻し ★★☆☆☆
謎解きのまともに機能しない推理小説の多い中で、有栖川作品は常に高いクオリティーの謎解きを提供してくれるので、その点では安心して読むことができます。本作品も、推理の面白さという点で、読者の期待を裏切りません。

とはいえ、今回作者はあまりに多くの要素をこの作品に詰め込みすぎました。孤島、ポーの詩、IT長者、クローンなど、どれか1つだけでも十分魅力的な舞台を作れるのですが、それを1つの小説に詰め込んだばかりに、却って読後「な〜んだ」という感じしか持てませんでした。豪華な舞台衣装を着た演歌歌手が、ビンボーくさい世界を切々と歌う光景とよく似ています。

もともと、有栖川作品は、動機(犯人の心理)面にはあまり重きを置いていません。今回の作品では、作者はこの部分の強化を狙い、このような派手な舞台を設定したのでしょう。しかし、その試みはこの作品については完全に失敗したと言わざるを得ません。

最後がいまいち ★★★☆☆
孤島での殺人、ポーの詩の余韻、孤高のカリスマ作家や現代のミダス王とも言えるハッシーなど、
状況設定、登場人物にはとても魅力があります。
現代科学と男女の愛が、孤島に集まる集団の謎に絡み合っている点もロマンチックです。


でもでも、だからこそ、動機の点が痛かった。
凄く通俗的で唐突で、「えっ。なにそれ」と呟きたくなる気持ちになったのは、
自分だけではないと思います。


本格物を書こうとする真摯な姿勢が感じ取れる作家さんだけに、惜しい。
この作品では別の動機、別の犯人を用意して欲しかったと思います。
これこそ有栖川有栖 ★★★★★
このところの有栖川有栖作品は「らしくない」ものが多かったように思う。
テロリストが登場したり、パズルが単なるパズルで終わってしまっていたり
うまくいえないけれど、盛り込んでいるわりには物足りないと感じることがあった。
今回の作品ではクローン技術に手を出すと知って
読む前に及び腰になってしまったのだけれど、杞憂だった。
まちに待った、読みたかったミステリーだった。
孤島というガジェットにひかれて、本を手に取った人は拍子抜けかもしれない。
奇怪な登場人物も、謎の子守歌も、酸鼻を極める連続殺人も無いのだから。
でも、これが有栖川アリスなのだ。端正な論理に身をゆだねればいい。
こけおどしなんて必要ないのだ。
ねちっこい人物描写も邪魔だ。
謎ときの果てに人物像と人生が浮かび上がってこその探偵小説なのだから。
今回も読後の余韻が素晴らしい。
島に残った火村と海老原はどんな会話を交えたのだろう。
有栖川有栖はロジックで詩をつぐむのだ。こうでなければいけないのだ。
孤島ものですが… ★★★★☆
作者と同名の推理作家、有栖川有栖と、社会学者の火村英生のシリーズ長編です。

アリス先生と火村先生が旅行中に、アクシデントで孤島に置き去りにされてしまいます。

携帯電話も通じず、数日後まで迎えの船も来ないというミステリではおなじみの状況で、

2つの殺人事件に遭遇します。

孤島ものというガチガチの謎解きよりは、島に集まる人々の持つ“秘密”に焦点が当てられています。

だけに、犯人がちょっと薄い気も。

あと、私はアリス先生のファンなのでウェルカムだけど、

事件が起きるまでが長く、冗長ってとられちゃう気もします。

それも事件へのプロローグとして楽しんでほしいところですが。

アリバイ崩しで、その謎解きのスリルで高揚した読者目線の気持ちと、

身近な人が犯人だというやるせない登場人物目線の気持ち、

そして登場人物が抱える切ない秘密を暴かなければならない、

火村先生とアリス先生の探偵目線の悲哀まで追体験したような感じ。

我慢していて泣く寸前の、喉の奥がぎゅっとなる感じの読後でした。切ない。

その切なさと孤島の雰囲気が良く合っていて心地よかったです。
これは少しガッカリかもしれない ★★★☆☆
この作者のものは結構気に入っているんですが、この作品はちょっとガッカリかも知れません。孤島での殺人事件、そこに集まった人たちの特異性等々、いろいろな条件を持たせた割に、おこる事件はかなりありきたりのものだし、ちりばめられた謎も一部しか明確になっていない。愛妻をなくした天才詩人とクローン技術の先駆者である医師といった特異な配役の過去や現在がもっと事件に影を落としているような展開を期待したんですが、雰囲気つくりをしているだけでした。本格推理物はどうしても事件そのものに焦点があたり、登場人物の背景等の書き込みは弱くなりがちなんですが、この作品もその傾向があり、なおかつ事件自体も種を明かすとあまり複雑な要素はなく、全体が中途半端になってしまったなあというのが私の読後の感想です。もっとあっと驚くような面白い展開のものを書ける人なので、次作に期待というところでしょうか。