収録されている顔ぶれは、日本文学から夏目漱石、太宰治、志賀直哉、小林秀雄ら、外国文学からはシェイクスピア、トルストイ、ロマン・ロランというように、堂々たる古典が主になっている。注意しておきたいのは、この教科書が小学校中高学年以上を対象にしていることだ。これら文豪たちの作品が取り上げられるのは、中学・高校以上であるのが普通だろう。
これは、子どものうちから風格ある文章に触れさせるべきという著者の考えによるもので、作品さえ選べば、小学生にでも文の「すごみ」は伝わるという。そのため、森鴎外や中島敦に代表される硬質な文体と並んで、野口英世の母・シカの手紙や棟方志功の随筆といった、決して美文とは呼べないものも積極的に収録されている。こうした選択にとまどう人もいることだろう。
とはいえ、収められた作品の存在感はとにかく圧倒的だ。巧拙(こうせつ)・難易を越え、文章をつづった者の執着や業が色濃く立ち上がってくる。思い入れたっぷりな解説もふくめ、きわめて読みごたえあるアンソロジーにもなっているのだ。本書によって読書の楽しみを知る子どもたちは少なくないだろう。のみならず、日ごろ言葉や文章に対する感覚を鈍らせている大人たちも、進んでページを繰るべき1冊である。(大滝浩太郎)