中心人物として出てくるのは、レオ・シラード、アーネスト・ラザフォード、オットー・ハーン、ニールス・ボーア、エンリコ・フェルミ、ロバート・オッペンハイマー、アーサー・コンプトン、アーネスト・ローレンス、といった面々(アインシュタインは脇役だ)。彼らがだいたいどんなことをした科学者であるかを知っていて読めば、彼らの人物像や性格などの「生」の部分に触れられることができるので、興味も数段増すだろう。
感情抜きで考えれば、貴重な経験をすることのできる本だ。連合国側の科学者たちが原子爆弾を作るまでの研究や、政治家たちの駆け引きなどをありのままに読むことができるのだから。
ただ、感情移入してしまえば、日本での戦争末期の惨状を尻目に、まるでサイコロを投げるようにして標的都市を決めたり、広島に落とされる「リトルボーイ」にくだらない落書きをしたり、投下直後に原爆開発者のオッペンハイマーが「まあまあの出来栄」などと悠長にコメントしたりという事実があったわけで、人の命をこんなにも軽々しく考えていたものかとがく然とする(その後オッペンハイマーが原爆投下を後悔したのは救いだ)。
結局はだれにも止められなかったわけだ。ドイツでの原爆開発が進んでいないことがわかってからもなお、大義を差し換えて開発を続ける(最近のどこかの超大国のようだ)。開発反対に回る科学者はごく少数。戦争が加速させる時の勢いとはそんなものかと思う。
なお、「水爆を最初に考えたのは日本人」という話が出てくる。重版以降なおされたかわからないが、これは著者ローズによる資料の誤読なのだそうで、指摘しておく(岩波ジュニア新書『科学の10冊』に詳しく載っている)。