ユニークな成長ものがたり
★★★★☆
田舎でひと夏を過ごす姉弟のもとに、父親から毎日一話ずつ「お話」が送られてきます。
「お話」の世界と姉弟の世界が次第にシンクロしていきます。
「お話」を通して、姉弟の葛藤や悩みとそれを乗り越える過程が描かれています。
最後まで読むと、異常なまでの弟のわんぱくぶりも納得がいきます。
「お話」を通して描かれる“成長ものがたり”という点がユニークで面白いです。
ほのぼの、どきり
★★★★★
この作品は、全体としては、ほのぼのとした印象を受ける。たとえば、
「ぼんぼりに灯りがついたよ」
腹ばいになって、白つめくさに顔を沈めていた洋介がいった。
白つめくさの花を透して夕日を見ると、たしかにあたり一面に咲いているアメ玉くらいの大きさの丸い花が、ぼんぼりのように、にじんで光っている。
井上さんのさりげない、提案は斬新だ。〈農村生活改善センター〉を中心とした、新しい村おこしの形の提案だ。村の若者たちは、都会へ流れてしまった。どうするべいか、残された年寄りたちは知恵を出しあった。……続きは、本作を手にして確認ください。
教訓。ウソにまじると、ホントもウソに見えてくる。
なんて言葉に出あうと、じゃあ、〈ホントにまじると、ウソもホントに見えてくる〉かもしれないな、と思ってみたり、
自分の気持ちってものがないんだな、この女の子。こんな子には、いたずらをしかける気にもならないや
なんて、洋介は言っているけど、ほんとにそうだろうか、と考えたりもした。
トトは邦代ちゃんのかわいがっている子猫です。彼女がピアノを弾くと、トトはそれに合わせて踊るので、それがおもしろくてピアノの練習につい熱を入れてしまったのです。
とある。子猫が踊るのを見るのが楽しくて、〈天才少女〉邦代ちゃんは、夢中でピアノを弾いていた。でも、〈大人〉たちが求めている答えは、きっと、そんなものじゃない、邦代ちゃんは、きっと、そう思ったのだろう。何を言えば、〈大人〉は喜ぶのか、安心するのか、邦代ちゃんにはわからなかった。
邦代ちゃんの母親は、「天才少女の母ということを、もっと世の中に知られたい」と願い、邦代ちゃんの〈先生〉である「玉沢先生は」「自分の教室から日本一が出たのをいい機会に、教室をもっとたくさんふやそうと考えてい」た。
〈自分の気持ち〉は、誰でも持っている。けれど、それがわからなかったり、わかっていても、口に出せない環境が現にある、井上さんは暗にそう言っているのではないか、と思った。
教訓。他人の教訓を鵜呑みにするな。
普段、なにごとも〈鵜呑みに〉しがちな私には、いたい〈教訓〉でした。
「あたしたちはうんと、ついているわね。だって考えてごらん。当たるのも珍しいけど、当り番号をさかさまにしたのが当たるなんてもっと珍しいわよ。あたしたちは運がいい。運がよすぎたくらいよ」
教訓。字は正しく書くこと、とりわけ数字は正確に。
この箇所に対する反応の仕方が、姉弟で対照的に違っていて、面白い。マイナスのことも、プラスに考えてしまえる強さは、可笑しくも美しい。
教訓。なにごとも〈鵜呑みに〉しないこと。作品を読むときも、日常生活でも、心がけよう、と思いました。
後半は「妻」の視線で読んでしまいました
★★★★☆
さゆりと洋介がいきいきと描かれていて、好感が持てました。
さゆりたちの父が書いてよこす、教訓をさらりと残した一つひとつの短いお話も愉快でした。
けれども、だんだんに弘子さんの存在が大きくなるにつれて、はらはらしてきました。
私が「妻」だからかもしれません。
私にもしものことがあったら、夫は好きな女性を見つけて再婚するのだろうか…。
どっぷり中高年の年代になり、「燃えるような恋心」とまでは呼べないにしても、身の回りの世話を
してくれる気立ての良い女性を求めるのだろうか。
そして、そのうちに愛情を育むようになるのだろうか。
子どもたちは、「自分たちの大事なお父さんにとって大事な人ならば、自分たちにとっても大事な人」と、
さらりと受け入れるのだろうか…ふと、そんなことを考えてしまいました。
母親を亡くしてからいろんな物の数字にこだわっていたさゆりが、数字から解放されてのびやかに
なったのは、弘子さんのおかげかもしれなくて、このお話ではハッピーエンドめでたしめでたしという
ところなのですが。
母親が起こす奇跡、母親が作る文化
★★★★☆
父親が海外出張で不在のため、夏休みをお祖母さんのところの林間学校で過ごすことになったさゆりと洋介の二人の物語です。
物語は、37日に分割されて進行します。
その一日ごとに、父親から(実は弘子さんから)の一口小話的な物語が挿入されています。
このウィットに富んだ小話も面白く、これだけを読んでいっても十分に楽しめます。
全体としては、父親の再婚話に戸惑う子供達の成長物語になっていて、これはこれで胸にぐっとくるものがあります。
弘子さんが家に来て台所に立ち料理を作ってくれる場面で、さゆりが思うことがなかなか良いです。
「ごくフツーの食材が、火と水と人の力で、なにかすばらしいものに変化するという、そういうふしぎな奇跡・・・その家その家の文化のようなものが、母を亡くしてからは、この家になかったのだ。」
母親が起こす奇跡、母親が作る文化。
その通りだと思います。
カツオ2号機の洋介を楽しんで。
★★★★☆
母のいない姉弟さゆり(中1)と洋介(小4)は、
夏休みを祖母の住む東北の村で過ごすことになる。
そんな二人の一番の楽しみは、童話作家で小さな出版社
(イソップ株式会社)を経営するお父さんから毎日送られてくる手作りの小さなお話・・・。
鳥の鳴き声や風の音が聞こえてきそうな、楽しい田舎生活が満載!
谷川での水遊び、地蔵堂での雨宿り、風の吹き抜ける松林で昼寝・・・
『サザエさん』のカツオ以上に、知能犯でいたずら好きの洋介がいい味を出しています。
37個の小さなお話は、ついつい 知っている有名なお話と比較したくなってしまうけれど、
教訓が織り込まれているなんて難しく読み取らないで、ただただ素直に受け取ってもらいたい。
一見無味に感じる小さなお話・・・でもこんな優しい文章にひたって、のんびりくつろぐのも悪くない。
たくさんの挿絵、幕間にチョロッと出てくる登場人物のつぶやき、
遊び心があふれる一冊です。