エッセイの中には、ヘミングウェイやマルグリット・デュラスをはじめとする作家たちとの出会いのほか、川上文学の礎を築いてきた数々の書物についてのエピソードも数多く盛り込まれており、作家川上弘美の人となりや魅力を十分に感じることのできる内容となっている。
彼女は1996年に『蛇を踏む』で第115回芥川賞を受賞した後、『溺レる』で伊藤整賞と女流文学賞、『センセイの鞄』で谷崎潤一郎賞を受賞するなど数々の賞を獲得。日本文学のなかでも、筆力は折り紙付きの女流作家である。
彼女が連載エッセイを書いていて、最後の回になると必ず思うことがあるという。「さみしいから文章を書いているのに、書くことによってますますさみしくなる。難儀です。でも生きているから、生きのびてこられたから、さみしさも感じられるわけです。難儀もまたよろし、ですね」。(石井和人)