田村氏による「真実の艦艇史」のシリーズです。
シリーズの通例に漏れず、一次資料の精査や元乗組員へのヒアリングなどによる、丁寧なリサーチの積み重ねに頭が下がる思いがします。

内容的には、ほぼ全ての記述が特型駆逐艦の戦時改装を時系列的に追う内容であり、戦記や開発意図、運用構想、艦や搭載兵器の機構的な解説は、ほとんどありません。
類書のない内容ですが、やや高度な内容であることも確かで、現実的には一般的な艦艇ファン向けというよりは、モデラーが時期を特定した模型を作成する時に真価を発揮しやすい本であると言えます。
またモデラー向きとは言っても、兵装の変遷に重点を置いているため、折り込み図面と巻頭の写真ページで全体形状が紹介されている若干の艦を除けば特型駆逐艦の全体的なフォルム、各部の基本形状を把握できる内容ではなく、初めて特型駆逐艦の、あるいは日本駆逐艦の本を買うような方には、少し高度な内容であるかもしれません。
そうした意味では、二冊目、三冊目の資料として位置づけられる場合のある本かもしれません。

ミクロな視点で貫徹されているだけに利用範囲が限定される一冊であり、その点をふまえて☆３つとしましたが、基礎的な知識のある考証派のモデラーや、特型駆逐艦の熱心なファンにとっては☆５つの評価でもおかしくはない内容だと思います。



本レビュー投稿後に、筆者の方からのコメントを頂戴しました。
このコメントにたいする私の意見とあわせてお読みいただけば、本書の特徴や執筆意図が明確になると思います。
購入にさいして参考としていただければ幸いです。