第一級の知識人が書いたユーモア日本人論
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これは、きだみのるという第一級の知識人が書いたユーモア日本人論である。
書かれたのは1946年、戦争に負け日本がまだ「国際的閉門」のお沙汰を受けている時である。
著者は東京の西端にある川沿いの13戸しか家のない集落の無住の寺に住み、村人たちを観察しノートする。
急峻な山の迫る村に付けられた異称は凄まじいものだが、その過激さは決して集落の住民に向けられたものではない。
ぼくが声を立てて笑った一節。
「(66歳のジンザ爺さんは西多摩に住んでいるのに,なぜか隣国である甲州の自慢を著者にする}
先生,甲州はええ国でっせ。物産が七つもある。
こんな国は日本国中金の草鞋(かねのわらじ)で捜したってありっこねぇ。
ええと先ず,水晶にとうもろこし,絹に葡萄、たばこに柿,はてそれから何だっけ。
いや未だ一つある筈じゃ.はあてな……それから信玄公の法名を先生知ってるかね。
これが日本一長いと来ている。覚えときなさい。ただ残念なことに浅野内匠頭の方が二字長い。
残念至極ですわい」
ジンザ爺さんになぜ甲州の自慢をするか聞くとこうである。
「西多摩には威張れるほどのものはないのでな」
これを読んで笑えた人には是非お薦めの本である。
村の人はこうも言ったりするのだから。
「先生,良心てのは,自分の中の他人だな」
喝采をもってお薦めしたい
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日本の文化スキーマの一つの原型を本書から見てとることが可能とも思われる。実際の経験をベースにしている、大変に貴重で素敵な記録と言えるのではないだろうか。それがまだ可能であった時点において、こうした"生"の記述をされた筆者は今の、そしてこれからの私達に大きなプレゼントを贈ってくださったことになる。秀逸な日本文化論が多数あるなかで、それらとは一線を画した、異なる性質をもつ本ルボタージュ日本社会論と思われる。おもしろおかしくもあり、知的刺激に溢れる必見の書である。個人的には20章台後半から30章台が特に興味を引いた。
日本全国総部落
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著者が戦中戦後にかけて滞在した部落の村民の性格を、若干の社会論的考察を併せて記した紀行録。読者は著者に部落を案内される形で書かれている。
さて、この村民たちの行動は、いかにも「田舎者」の行動であるのだが、それが著者の考察を通してみると、まさに現代でも通じる我が国の国民の性格そのものがあらわれてくる。
著者は、この本において、こういった部落的な日本社会の慣習を批評することは少なく、ただただ村民を見て、そして考えるの連続を記しているだけだが、それがある種の皮肉のように見えておもしろい。
この面白さをわかる人
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この面白さをわかる人には、ものすごく面白いし興味深く、続編がよみたいほど。普遍的作品のひとつと思っている。今までに3冊購入して、知人にすすめたが、面白いと言う人と、全く反応のないひとがいた。作者はファーブル昆虫記を翻訳した人と聞いている。