現代的な悲喜劇
★★★★☆
最初は会話が人工的に思えたが、次第に2つの家、2人(か3人以上)の男の間を行き来する(せざるを得ない)ルイーズを中心とした物語に引き込まれてゆく。愛情やパッションや楽しみや喜びや街や住居の好みに従って自然に生きようとするとき現れて来る地獄の苦しみが、(今より少し古い)美しい現代生活の中でセンスを持って描かれている。
少し前の現代のパリ(とその郊外)はノスタルジーさえ感じさせる。今と同じ住美学、しかしコミュニケーション手段はもはや過去のもの、今はもっとすれ違いが起こりにくい環境にあるのだが、一瞬(まるで)パラレルワールドに生きるような錯覚を起こさせる。
なぜ満月の夜かと言えば、映画の最後に主人公のルイーズが行きずりの恋に後悔して、アパートから出てカフェに入ったときに隣に座っていた絵本の絵を描いている男が「今晩は満月の夜、誰も寝てられなくてさまよい歩く」と言ったからだが、このような便利な現代社会に生きながら、われわれはそのような自然(満月)に運命づけられているのかとさえロメールは言うのか?
ところで、ルイーズが「カフェで絵を描いているのですか」と言ったとき"dans les cafes"と複数形になっているのをフランス人に聞いたら、「一般的にカフェで」の意味との返事。"dans un cafe"だったら(不定冠詞であっても)「このカフェで」、"dans le cafe"(定冠詞)だったら「コーヒー会社で」という意味になるとか。