私はこの本のなかの「葦の中の声」という部分からアン・リンドバーグの
「海からの贈り物」を知りましたが、この本にも深い感銘を受けました。
取り上げられているものの中には絶版のものもあったかと思いますが、
それらの本を読めば、すばらしい読書体験を共有できると思います。
初めてその本に触れた時に、首をかしげてしまった言葉への疑問。それがある日、「ああ、あの言葉はこういうことだったのね」と、天啓のように脳裏にひらめくその瞬間。
初めてその本を読んだ時、記憶の中にとどめられた本の中の文章。それら文章たちが、オルゴールの蓋を開くと音楽が鳴り出すように、再び心によみがえるその瞬間。
そうした忘れ得ぬ瞬間を、本と自分とを結ぶ思い出の数々を紡いでいった須賀さんの文章の、なんて素敵なこと。わくわくしながら、引き込まれるように読んでいきました。
本をめぐるエッセイ集では、これまでは長田弘さんの『風のある生活』(講談社)がとっときの一冊でしたが、本書はそれに優るとも劣らない、とっときの二冊目になりました。
須賀さんの文章の見事なこと、そこに込められた思い出の生き生きと輝いていること。本を友とし、本の旅人と自他ともに認める方に、ぜひどうぞとお薦めしたい一冊です。