年月を経て、夫から取り残され、やがては町の住人ではなくなっても度々イタリアを訪れ、かつての仲間や友人たちと短い時間を共にする作者が、様々なエピソードをつないでいく。時として時間軸や場所が交錯し、章の最後まで読むと、霧が突然晴れるように全体像が見渡せるようになる。パズルのかけらを一つ一つ集めて一つの風景を創作していくような、繊細かつ大胆な構成が見事である。口語のような印象を与える柔らかさを持ちながらも、深みのある文学的な気品を失わない言葉を、練りに練って贅肉を落とした簡潔な文章にまとめ、軽快なテンポを保っている。文学作品を翻訳するという作業に長年携わってきた中で鍛え上げられた職人技とセンスが素晴らしい。
また、磨きぬかれた日本語が読んでいて心地よく、文章やことばのひとつひとつを選びに選んで丁寧に書かれているので心の奥まで情景が沁みとおり、気持ちが穏やかになります。 深くイタリアに取り憑かれている(?)友人、イタリアでの滞在を決心した友人などに是非読んでもらいたく、しばしば贈っている本です。