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トリエステの坂道 (新潮文庫)

価格: ¥562
カテゴリ: 文庫
ブランド: 新潮社
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後ろ向きだけど美しい ★★★★☆
イタリアもので有名なエッセイスト、小説家のエッセイを集めた一冊。イタリア生活の大先輩でございます。

著者の過去の思い出を綴った短編がおさめられており、まったくもって後ろ向きでしんみりし過ぎで、明るくないし、思ったほどイタリアのことが勉強になるわけでもなく、須賀家の内幕がうかがい知れるだけなのであるが、文章が全くもって美しく、このところは感心するほかない。
一気にタイムトリップして60年代のミラノに意識がとばされる。鮮明に光景が浮かぶ。

最近の書き手はこういうシンプルだけど深みのある文章を書かなくなったね。個人的には深みはないけど茶目っけのある文章の方が好きなのであるが(島田雅彦とか)、久々に美しい日本語に触れられた気がしたので星4つ。
静と哀 ★★★★★
 須賀さんの本を読むと、心がしんと静かになる。気が立っていても、焦っていても1ページ目を通すと、ざわめきが収まっている。
 作品全体をおおうもの悲しい雰囲気。思い返される夫や近しい人々の死、微妙な距離感が埋まらないイタリアでの生活、そして変わっていく人々。愛おしくそっとつつむような須賀さんの文。
 いいな、この人。言葉が染み込んでくる。何作も続けて読むとしんみりしてしまうけれど、ゆっくりと読んでいきたい。
教養とこころの暖かさが同居 ★★★★☆
著者はミラノに縁あって根を下ろして生活し、カトリック左派の神父たちが中心になってできたコルシア書店の主要メンバーだったペッピーノさんと結婚。しかし夫は7年少しの幸せな日々の後に、病死した。

国際結婚というのは最近多いけれど、須賀さんの結婚は時代も時代だったが、須賀さんがいわゆる良家の子女であったのに対して、相手のペッピーノさんはイタリアの無産階級といえるような経済的に貧しい家庭環境に成長したという点で、複雑なものもあったようにも思われる。この「トリエステの坂道」においては、夫の家族(狭い意味の家族のみならず、義弟のお嫁さんのお父さんなども含む)がすばらしく生き生きした描写で再現されている。
須賀さんは本当にイタリアで地に足をつけて生活してらしたんだと思う。だから夫が亡くなってからも、イタリアの家族は家族であり続けたのだろうと思う。

作品に触れて感じた須賀さんのものの見方の、少なくても私にとって魅力的なのは、どんな人をも裁いていないということだ。お金持ちも、周囲にとっては迷惑千万だった貧乏な落ちこぼれの人物も、一様にどこか暖かい眼で見て、観察して描き出している。すばらしい教養があふれる文章であるが、冷たさや硬さとは無縁であり、ほかではなかなか得られない読書体験をもたらしてくれる。
イタリーっぽいです。 ★★★☆☆
この作家独特の比喩表現は、いくつか散見できたが、「コルシア書店・・・」のほうが、より光っているように思えた。いずれにしても、作者独特の表現方法は、イタリア文学から来るのかもしれないと想い、すこしイタリア文学に興味が出てきた。
丁寧に編まれた美しい自伝的小説 ★★★★★
時が熟すのを待って、ようやく生みおとされた本書は、一見、自伝的エッセイのようにみえて、その実、綿密に練られた構成をもつ小説となっている。的確で無駄のない言葉と、一歩退いた視点。こうした方法で描かれているがゆえに、本書は、感傷的で個人的な海外暮らしの思い出話に終わることなく、普遍的な人間の生を映し出す物語になることに成功した。そしてそれは、我々読者が筆者の失った愛しき人々に対して、むしろより深い愛惜の念を抱くことになる心憎い仕掛けとなっているのである。