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パリ左岸のピアノ工房 (新潮クレスト・ブックス)

価格: ¥2,100
カテゴリ: 単行本
ブランド: 新潮社
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   パリの左岸にあるひっそりとした裏通りに、そのピアノ工房はある。本書は、パリに住み着いたアメリカ人の著者が、この店の扉をノックし、ピアノという楽器の深遠な世界に入り込んでいくさまをつぶさに描いている。ショパンの好んだプレイエルや豪華なスタインウェイなど、古今東西の名器がこの工房に集まり、再生されていく。ピアノをまるで生き物のように扱う職人との交流を軸に、ピアノの魅力をあますところなく描いている。

   本書はピアノの専門書ではない。しかし、「震えるようなひびきがいつまでも空中にただよい、次々とひびきを重ねても音色が曖昧になったり濁ったりはしなかった(ファッツィオーリの音色)」というような、個性的なピアノの音に関する表現が非常に魅力的だ。また、自分だけのピアノに巡り会ったときの喜びは、ピアノ好きならぞくぞくするような感覚として実感できるに違いない。20年ぶりにピアノを手に入れた著者と共に、ピアノの起源から近代のピアノが成立するまでの歴史を旅し、ピアノの内部をのぞいたり、有名なピアノ教師によるワークショップに参加したりといった疑似体験を得ることができるのが、この本の魅力といえよう。

   本書には、ピアノだけではなく、忘れられないキャラクターもたくさん登場する。アル中の凄腕調律師、子どものころ出会ったピアノの先生、著者の子どもが通うことになる音楽学校の校長など、その後が気になる人物ばかりである。

   著者は、幼いころ感じた発表会の恐怖について回想しているが、その感覚に覚えのある人も多いに違いない。大人になってスパルタレッスンから解放された今、この本を読むと、再びピアノのふたを開けてみたい衝動に駆られる。(朝倉真弓)

ピアノが奏でる物語。 ★★★★★
ヤマハ。エラール。ガヴォー。
ザウター。ザイラー。プレイエル。
ゴッティング。チッカリング。シュティングル。
ブロードウッド。べヒシュタイン。スタインウェイ。
ファツィオーリ。べーゼンドルファー。

パリ左岸の静かな通りに、とあるピアノ工房があるのをご存知ですか?
名前は「デフォルジュ・ピアノ店」。
何の変哲もない店構えをした、ピアノを愛する職人たちの店。
家族とともにパリに移り住んだアメリカ人の著者が、
ある日「デフォルジュ・ピアノ店」の扉をノックしたところから、この本の話が幕をあけます。

パリの音楽街から遠く離れた区画にあるこの不思議な修理店。
情熱的なアプローチの甲斐もあって、ようやく入ることを許された秘密のアトリエに並んでいたのは。
それまで著者が見たこともないような、世界中から取り揃えられたありとあらゆるピアノとその部品たち。

蜂蜜のように甘い音がする、ショパンの愛したプレイエル。
埃にまみれた老朽船にも見える、ベートーヴェンのピアノ。
息を吹きかけただけで音を鳴らしたという、ドビュッシーのエラール。
まだ世界に1000台も出まわってない、幻のピアノ・ファツィオーリ。

この本のなかには、本当にありとあらゆるピアノたちと、それと同じくらいの数のピアノを愛するたくさんの人々が登場します。

ピアノに興味のあるあらゆる人へ。
音楽を愛するすべての人へ。

そっとおすすめをしたい、とびきりの一冊。
暖かく優しいまなざし。 ★★★★☆
子供の頃に楽器を習っていたけれど、大人になる頃には弾かなくなってしまう人は多いと思う。
そして、なにかの機会にふと「あぁ、また弾きたいな」と思ったりする。
私もそんな1人。
そういう人には打ってつけの作品だと思う。無論、そうじゃなくても面白い。
ピアノの楽器としての構造や材質、ピアノ製造会社といった細かいお話。
ピアノの楽曲。
ピアノを教わる話。
ピアノと関わる人々のこぼれ話。
ピアノ工房で働く人々を通じて描かれる”フランス人って”な部分。
筆者のフランスへの暖かい眼差しや、ユーモアを交えた語り口によって”薀蓄”的部分もすんなり入って来る。
「ほー」と感心したり、頷いたり。
なかなかに面白くて濃いノンフィクション・エッセイでした。
ピアノ:音楽に必要なこと:50過ぎてからでも作家になる方法 ★★★★★
ピアノを習う人が少なくなってきた。
それに比べて、電子ピアノ、電子オルガン、キーボードは大衆的になっている。
キーボードでも十分音楽を演奏することはできる。
ピアノを習ってから、キーボードを扱うのでもよいのではないか。
グランドピアノの持つ音楽性を理解するには、小説として読める本書はそのきっかけにならないだろうか。
ピアノなんてもう時代遅れさという人には、この本の良さがわからないかもしれない。
ピアノのことを一度も考えたことがない人に、ぜひ読んでもらいたい本である。
著者は50歳を過ぎてから作家になったそうである。
そういう成熟した視点が、これからのピアノの進むべき道を示しているような気がする。
日本のピアノメーカの方々にも、読んでもらい、もう一度ピアノの良さを説明する方法を考えて欲しいかもしれない。
好きな"対象"への、美しく抒情的なその語り口に酔わされる。 ★★★★☆
素敵な1冊である。その店はパリの片隅の狭い通りに佇んでいた。閑静な街並に場違いな感もある「デフォルジュ・ピアノ」との名を持つ小さなピアノショップに、アメリカ人の筆者は惹きつけられてしまう。
「パリ左岸のピアノ工房」は、筆者が感じる心情そのままの不思議で謎めいた雰囲気で始まる。スタインウェイ、べヒシュタイン、ベーゼンドルファー、、、。ピアノという楽器が持つ気品と繊細さ、様々な国々から流れてきたピアノたちが集められたパリの裏通りのアトリエ、ピアノへの愛情と蘊蓄が溢れんばかりの調律師、筆者自身のピアノとの関わりと思い出、それらを美しく抒情的に綴る語り口に酔わされる。
"心躍る対象"を追い続ける少年のようなピュアな筆者の気持ち、流行る気持ちを抑え切れない心のときめき、まるで恋をするような魅惑の衝動が胸に迫ってくるのだ。
そして、大きな魂を持つ楽器とそれに更なる生命を吹き込む男の絆、幾多の数奇な運命を経て出合う彼とピアノたち、実にドラマチックだ。
良く出来た神話的物語と思いきや、実はノンフィクションというのが凄い。ピアノ好き、パリ好きはもちろん、それらに興味がなくても、愛用品であれ、蒐集品であれ、自分の中で"愛"を以ってこだわる"何か"を持つ方なら、きっと共感出来るはずだ。
日本からは見えないピアノをめぐるドラマが見えます ★★★★★
パリ市内の「セーヌ川左岸」といわれる地域にあるピアノの修理工房と、そこに出入りするようになったアメリカ人の著者のお付き合いを描いた作品です。

「ピアノもの」といえば演奏家や作曲家がクローズアップされるものですが、この作品はそういったアーティストを描くのではなく、それを支えるピアノたちとピアノをこよなく愛する職人さん、著者を含むその周りの人々とのかかわりを描きます。ちょっと昔の「一見さんお断り」的なヨーロッパに足を踏み入れて戸惑うアメリカ人の著者を通した目が新鮮さ、温かさを等分に描いています。登場するピアノたちは現代のストロングなフルコンサート用のものではなく、ひと昔もふた昔もまえの瀟洒なものばかり。柔らかで軽やかな音色が聞こえてきそうです。日本からは見えそうで見えない、西洋音楽を支えるひとたちの愛情もあふれるごとく伝わってきます。

欲張りをいえば、タイトルは「パリ左岸」じゃなくて「セーヌ左岸」のほうがしっくりくるんじゃないかと…でも、仏語になじみのあるかたばかりが手に取るわけではないので、地名を入れた邦題になるのはいたしかたないことなのでしょう。よってこの件は不問としてこの評価とします。