一番好きです
★★★★★
クリスティの作品では、私としては一番好きな1冊です。
私は謎解きを楽しむと言うよりは、好きな登場人物や好きな場面に会いたくて、何度も何度も、犯人がわかっていても、繰り返し読むタイプの読者です。謎解きが好きな人やミステリの技術的な側面を重視する人には、この作品が向くかどうかわかりません。
この作品は、主人公2人の明るくさわやかなキャラクターも好きだし、家を探す場面からヒロインが買った家に疑念を抱く過程までの導入部も、とても細やかに気持ちよく描かれています。登場人物の生活感が伝わってくるような、暖かい目線で話が展開しているのが、何より好きなポイントです。
ミス・マープルの事件へのかかわり方や、人生経験に裏打ちされた洞察力の発揮どころ、編み物や庭仕事といったディテールの使い方も、すべて自然で暖かく、マープルの魅力がよく活かされていると思います。
事件自体は悲しい展開を見せますが、読後感が爽やかで幸せな気分になれるのも、私にとって魅力的です。
こんな家でミス・マープルとお茶を飲みたいなぁ……と思います。
昔の事件を再検討するというパターンはポワロの「5匹の子豚」と共通しますが、こういうテイストはミス・マープル向きのような気がします。事件がいったん終わっているだけに、かかわった人たちや改めて関心を持った人たちの人物像や生活感覚が魅力的に浮き彫りになった方が、読んでいて楽しいのです。ミス・マープルは、まさにそういう部分を浮き彫りにする役回りですから……
マープル最後の事件だが、書かれたのは最後ではない
★★★☆☆
本書はミス・マープル最後の事件として執筆されたものだが、その執筆時期は1943年と『書斎の死体』や『動く指』と同じ頃で、執筆順からいえば、むしろマープルものとしては初期作品に属する。
従って、恩田陸が巻末解説で本書を後期の作品としてその作風を論じているのは明らかに誤り。
本書では、ヒロインが購入した海辺の家について、以前あったはずのドアや階段、元の壁紙の模様など、まるで以前から知っていたかのように思い浮かべ、果ては家の中で女の死体が転がっているのを連想し、自分の頭がおかしくなったのではないかと思い悩む。
マープルはそれが実際に起きた過去の殺人であると指摘するが...
前半はゴシック・ホラーを思わせる展開だが、面白いのはここまで。
以後の展開はありきたりで、作者作品を読みなれた読者なら、誰が犯人か分かるだろう。
静かな殺人
★★★★☆
マープル最後の事件、感慨を持って読み始めたが同じく「最後の事件」である
ポアロの『カーテン』と異なり、マープル自身は遠景にとどまる。
幼児の深層に記憶された殺人は静かに掘り起こされる。
その過程が怖い。
ただ、犯人は謎解きを待たず、仕掛けも含めてわかってしまう読者が
多いだろう。
本棚に買い込んだ何十冊のクリスティのミステリーの最後に、これをとっておいた。
読み続ければ、トリック、読者をあざむく手法にも慣れてくる。
それでも、アガサを読む楽しみは損なわれない。
推理小説のジャンルを超えて人間の深層を語り続けた小説家。
「厳しいがあたたかい目」の常套句は似合わない。
厳しく救いがなかろうと、その無惨をも恐れない。
私がアガサを読み続けて感じたのは、そんな勇気だ。
いつもながらの犯人の意外さ
★★★★★
イギリスの風景と文化を楽しむことができる ミス マープルもの。
映像作品も同時に見たので、すごく楽しめました。
筆跡鑑定の真贋は、他の作品でも出てきますが、しばしば偽物と思われたものが本物だというのがアガサクリスティの仕掛けの一つだということが分かりました。
古い建て物、建築家も、仕掛けの一つですね。
新聞の切り抜き、郵便、検死、刑事、庭の手入れは、マープルものに限らない小道具と登場人物。
本作品は、めずらしく、犯人はいったい誰かが途中でわかってきました。
ミス・マープルの最後の事件
★★★★☆
初めて来たはずの場所に感じる既視感。
ふとした偶然により、記憶の淵から甦り、フラッシュバックされる過去の恐怖――。
《回想の中の殺人》をテーマにした“ミス・マープルの最後の事件”。
一人の美しく魅力的な女性と、彼女を愛した男たちの関係性を軸に、
過去の記憶に眠っている殺人を掘り起こしていく手ぎわは、じつに
優雅でエレガント。
ミステリというより、ホラー風味のサスペンスという感じであるため、
意外な犯人とか、緻密な解明といったものは望めませんが、着想の
独創性とサスペンス醸成の巧さには流石に大家の風格があります。