とにかく生きる。そして何かを信じる。そこがどこであろうとも。
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シロとクロが生きる「宝町」は人々のあらゆる業を体現し受け入れる極彩色の世界。しかし、そこは次第に何物かによって変貌させられていきます。その中で奪われていくもの、自ら去り、滅びていくもの…。物語の終盤では、二人の子供たちは全てを塗りつぶそうとする闇から逃れ、光に溢れる新天地を獲得します。その一方で、色褪せていく世界の中でも淡々と、そしてしぶとく生き続けていくであろう無数の大人たちが存在します。10年以上前に初めて読んだ時は、ただただクロとシロの絆に感動していましたが、今になって読み返してみると、彼らをとりまく若者や大人、老人たちの生き様にも感慨を覚えます。
シロとクロ、突き抜けて青い空と海。
★★★★★
松本大洋の画く世界は美しい。それはもう圧倒的に。
詩であり、文学や哲学であり、人間のありとあらゆる要素が詰まっている。
シロとクロの【ネコ】と呼ばれてる2人の子どもは空を飛ぶ。彼らの視線の下には宝町。
そこではヤクザのネズミや木村、それを追いかける警察の藤村や沢田、
そして町を乗っ取ろうと何処からかやって来た蛇、それぞれの思惑が蠢いている。
呼吸する街の、あちらこちら。余白に書きつけられたラクガキが、
この宝町に生きる言葉足らずな人達の呟きのような残響の効果を出している。
この、口にされる事のなかった声を聞き取り、街に漂う気配を見抜き、
画く事が出来る松本大洋は本当に凄い作家だと思う。
更に、傍目には時の流れに逆らい成長する事を拒否したかのようなシロ
(まるで映画ブリキの太鼓のように)が時計を両腕に巻き付けたりしているのも印象的だった。
24時間の記録時間ではなく、自分用の記憶時間とでも呼べるもので暮らし、
性急に変わり続ける街の事情から相棒クロを守ってたんだなぁ、と。
最後、底抜けに明るい笑顔の2人が、こっちを見ている。カッコいい!
なんにでも白黒つけて、単純に二分するんじゃなくて、
シロもクロも花も鳥も魚も、この空と海の青の中に生きている。愛ある世界に。
出会えてよかった
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こんな世界があるんだ・・・と衝撃をうけました。こんな救いのない世界でこんな確かなものがあるんだと言う気持ち。結局人の心は人でなければ癒されることはないのかと言うお話。残酷に見えながら物凄く単純でピュアなお話。
読んで良かった
★★★★★
実は私は最初は松本大洋先生の絵があまり得意ではありませんでした。
しかし、1巻2巻と読み進めるうちに、その世界に引き込まれ、3巻を読み終えた頃にはすっかり松本大洋ワールドにハマっていました。
平べったい紙から、登場人物の感情はもちろん、宝町や人物がまとっている空気や、きいているであろう音までもが伝わってきて、その感覚が何度読んでも消えないのです。
話もセリフも間の取り方もすべてが私の求めていたもので、2巻終わりから3巻ラストまでを思い出すたび泣きそうになる私がいます。
なぜ泣きそうになるのか…。その原因はクロの寂しさか、シロの強さか。はたまたまわりの人間の気高さ・人間味、大人の身勝手さ…どれなのかはわかりませんが、でもきっと、すべてがそうなのかもしれません。
今となってはありふれた話・テーマなのかもしれませんが、10年前にはきっとまだ新鮮な方だったのではと思います。でも今でもまったく色褪せていない、本当に魅力的な漫画です。
運命
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人は誰も完璧でない。だから皆自分に足りない何かを他人の中に探す。そして、それに惹かれる人もいれば、妬む人もいる。シロとクロ、お互いに足りないモノを自覚し、そして支えあっている。私はそれを感じ単純に幸福なことだと思う。