人生の価値
★★★★★
免疫学の泰斗による、生涯での忘れえぬ6件の出会いが紹介されている。どれも印象に残るすばらしい話であるが、私は特に恩師との日々を描いた「ニコデモの新生」と「朗らかなディオニソス」が忘れ難い。そして、「後書き」。脳溢血に倒れ、癌に侵された日々の中で、著者がどんな思いでこの書を綴ったか、抑えた筆致で述べられているのだが、電車の中なのに涙が止まらなかった。
読後思うのは、人生の価値とは、自分がどれだけのことを成し遂げたか、ということもあるのだが、それ以上に、心を通わせることができる素晴らしい出会いがいくつあったかどうか、ではないか、と思う。もちろん、人数の多さや会った回数の多さではない。そして、そのような者とは亡くなってからも心の中で生者同然に交流できるのだ。
著者自身も亡くなってしまったが、この本のお陰で著者が体験した濃密な交流を、読者が追体験できる。素晴らしいことだと思う。