アメリカの大ベテランＳＦ作家として６８歳の今も現役で精力的に活躍する短編の名手ビッスンの秀作９編を納める日本オリジナル傑作集第２弾です。まず本書の帯に書かれた「現代のほら話」というキャッチ・コピーは当たってはいますが、正しく作品の本質を伝え切れていないと思います。全体的に滑稽で穏やかな余韻を残す作品が多い中で、数編ある読後心に哀しみが込み上げて来る作品群の印象が非常に強く、そこに唯面白いだけではない著者が作品に込めた厳しくも優しい人間愛を感じます。
『平ら山を越えて』地殻変動で出来た平ら山の向うへ荷を運ぶ「山越え族」の俺が道の途中で拾ったヒッチハイクの少年をお供に危ない旅路を辿りながら昔の自分を回想するノスタルジックな表題作。『ジョージ』初めての出産で背中に翼が生えた男の子を授かった夫婦が悩んだ末に選んだ道に苦難を予想しながらも爽やかな感動を覚えます。『ちょっとだけ違う故郷』二人の少年と生まれつき体の不自由な少女が大人に内緒で古い競争場で発見した飛行機に乗って異世界へと旅立つ冒険ＳＦで、哀切なラストに感極まって涙を誘われる老若男女全ての方にお奨めの必読の名作です。『ザ・ジョー・ショウ』本書中で一番馬鹿馬鹿しくて笑えるエロティックＳＦの痛快作です。『スカウトの名誉』ネアンデルタールとホモサピエンスが同時に生きていた時代に時間旅行した人間から送られる報告メールは虚構なのか？それとも。『光を見た』宇宙人とのファースト・コンタクトＳＦで、超越的存在との関係を愛犬と人間になぞらえる手法が素晴らしいです。『マックたち』処刑される目的で創られたクローン人間に為される残虐な行為に人間の浅ましさを感じますが、それでも最終行の言葉に切実な愛を感じ救われます。『カールの園芸と造園』環境破壊により危機を迎えた植物相を守ろうと日夜がんばる猛烈男と助手の娘の必死の奮闘記。『謹啓』人口調整の為に７０歳以上の男性に死を意味する旅団への入隊を義務づける近未来のアメリカで二組の友人夫婦に起きた過酷な悲劇。追い詰められ絶望の果てに主人公が選んだ衝撃の結末に心が凍りつきます。
今回特に『ちょっとだけ違う故郷』を読んで強く感動し忘れ難い名作に出逢えた喜びを得られました。この一編だけでも本書を読む価値があると確信しますので、ぜひ多くの方が読んで感動を味わって頂きます様にと心からお奨め致します。