では、売る側立った時にどうすれば良いのか。
どんな心構えでどんな戦略をとっていくのが良いのか。
商品や社名のネーミングやら広告戦略やら結構細かな解説までされている。
個々の提案は抽象論で終わることなく、具体的にどのような点に気をつけ、何をすればよいのかという点まで踏み込んである。その対象は広告、プレゼンテーション、企業名、ブランド名、接客と幅広く、内容が充実している。また、上手く翻訳されているため大変読みやすく、実践的なマーケティングの入門書としてお薦めすることができる。
しかし、同じようなマーケティング本は既に多く出版されている。
「ビジネスを本当の意味で理解したければ、文学を読むべし」
「客がうなずいた時はわからないとき」
など、新鮮に感じる部分もあるが、ほとんどはどこかで聞いたことがある内容である。既に似たような本を読んでいる人にとっては、本書は退屈かもしれない。それでも、つい忘れてしまいがちな基本を復習・再確認することができるので、一読の価値は十分にある。
ハリー・ベックウィスの作品は、『逆転のサービス発想法』『インビジブル・マーケティング』(いずれもダイヤモンド社)と読みつないできた。いずれも軸足が現場にあり、刺激に満ちた満足できる内容だった。
本書は一貫して、「足で考えろ」「目で考えろ」「耳で考えろ」と唱えている。決して「机上で考えろ」「データで考えろ」とは言っていない。
行間から「どや、どや」という阪本節が聞こえる。原書は知らないが、リズミカルな一冊に仕上がっている。私にはビジネス書を、「リズミカルな」と表現した記憶はない。通りに面した明るい喫茶店が似合う、極上のお薦め本である。(藤光 伸)