有名人なら「モーツアルトの手紙」など、現在も残っていて当時をうかがい知ることができるのですが、そんな中に、漱石と子規という大親友の「往復」書簡集が残っているのはすばらしいことです。
子規は結核から脊椎カリエスをおこし35歳で病没してしまいますが、死ぬそのときまで漱石からの手紙を恋焦がれていたそうです。子規の48通目、漱石への最後の手紙を読むと、切なくて泣けてしまいます。漱石は子規の病状を知っていて、たぶんわざと返信に「楽しい(楽しくなる)」ロンドンを子規が思い描けるように綴たのでしょう。病院の入院患者を見舞う肉親や友達のように・・・
本書は当時の書簡を、現代仮名遣いに直しただけで後は原文どおりです。文語体に慣れないとなかなか先に進まず読みづらいかと思います。でも百年後の私たちは、この本から「あるひとつの友達のありかた」を見ることができます。
そして今、私たちは当然のようにメールをやり取りし、それぞれの「メル友」を持っています。百年先の日本人(?)が「現代のメル友通信集」を読んで、どんな感想を抱くかなあと思い、ちょっと面白くなってしまいました。
天国では漱石も子規も手紙ではなく生の付き合いをしているのでしょう。百年前と同じように。
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