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インカとスペイン 帝国の交錯 (興亡の世界史)

価格: ¥2,415
カテゴリ: 単行本
ブランド: 講談社
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インカとスペインのインタラクション ★★★★★
 これまでの教科書等ではさくっと「スペイン人が南米を征服した」に毛の生えた程度の記述しかなかったインカとスペインの関係について、本書はいままでありそうでなかった斬新な視点から描き出す。しかしながらインカ一辺倒というわけではなく、できる限り中立的・客観的な視点を保とうとしている。
 インカ帝国の興隆、スペイン王国の成立からいわゆるコロンブスのアメリカ大陸到達、そして征服、植民を経て大西洋をまたがる帝国に様々な人・もの・情報ネットワークが成立し、そにには様々なドラマが展開される。日本ではほとんどなじみのないことばかりだが、生き生きと一緒運命にその時その時を生きた人々の素顔が見えてくる。中南米の人々が抱える民族的・政治的問題もよく見えてくる。
 本書は19世紀の中南米諸国の独立までを扱うが、われわれの中南米理解がいかに一面的と粗末なものであったか反省を迫られる。
16世紀のスペイン、インカを知る上での良書 ★★★★★
2年ほどスペインに住んでいたことがあるので、以前からスペインと南アメリカとの関係には興味がありましたが、学生時代の歴史教科書にでてくるインカに関する記述といえば、「16世紀にスペインが南アメリカ大陸に勢力を伸ばしました。スペイン人はインディオやアフリカから連れてきた黒人を奴隷にし、銀やサトウキビで大もうけしました。インカ帝国はスペイン人のコルテスに滅ぼされました。」というくらいで、確かに簡単にいうとそういうことなのかも知れないが、そう簡単には言い切れないさまざまな歴史の物語があったことをこの本は教えてくれます。
一方で日本の歴史教科書における世界史の記述が完全に欧米史観の受け売りにしか過ぎないことも教えてくれます。(本シリーズにはそういった趣の書が他にもありますが。)
ただし、著者はインカ側からの一方的な視点ではなく、スペイン側からの視点もバランスよく記述されており、双方の歴史認識を少しでも理解する上で大変助けになると思います。
目から鱗が落ちた ★★★★★
ピサロのインカ帝国征服の物語は、いつも少数の馬に乗り鉄砲を持った騎士が、インディオの大群衆を者ともせず突撃しアタワルパを捕虜として、身代金として国中の金を集めて、帝国の支配権を手に入れたという、なんとも物理的リアリズムで書かれてきた。しかし、ここに描き出されている真相は、それとは全く違う。インカ帝国自体が各共同体を自主性を持ったまま交通路でコミュニケーション的に支配しているのであって領国性的に人民の人格支配まで行っていたわけではないこと。従って労役奉仕にかり出される下部共同体はインカ王権に対して、つねに反感をもっていたこと。そうしたことの延長にインカ帝国の上に文化的にも人倫的にも優れたスペイン王国の存在を提示して、スペイン王国の貴族となる道を下部共同体の首長に示したことによって「ころびインディオ貴族」が続出したのだという、きわめて合理的な歴史理解を示した画期的な偉業である。
インカ帝国の滅亡について知りたい者も、イラクやミャンマー、あるいは中国に対する批判が、西欧権力のいかなる動機に基づいて行われているかを知りたい者にも必須の研究書である。脂ののりきった網野さんには第二第三の矢をつがえていただけないかと説に希望する者である。
とにかくインカ帝国史を塗り替える偉業であると言っておきたい。

この本から読み取れることは多いがメキシコのサパティスタ反乱軍の高度に文学的で詩的な戦闘宣言が、どのような知的背景で書かれるのかを明らかにする意味でも大いに意義ある本だと思った。