「神とか社会的なステータスとか金とかいうような外的な価値から自分を計るような生き方にたいして、そうでない生き方を提出してみせることだった」
「ウラミの念で身体をいっぱいにしてしまったり元気がなくなってショボクレてしまったりしないで、そのつど自分として一番納得できる生き方をしようとすること。」
キリスト教的道徳批判としてニーチェを読み解きながら、わたしたちが日常る上でも手がかりとなるような思考形態を提出している。後半のハイデガーに関する部分は少し模式的になりすぎて、途中から失速した感は否めないが、それでも可能な限り平易にかかれた本文は、非常に親しみやすい。
私も実生活のなかで共感する部分がおおいにある。
どの職場にも、仲間や上司の悪口ばかり言っているショボイ人はいるものだ。確かに、人間的にも能力的にも問題がある仲間や上司について愚痴をこぼしたくなるのは分かる。だが、そんな組織でどれだけ創造的な活動ができるのかを模索するのも職務のウチ(というより、それがモラル)なのだから、そんなくだらないルサンチマンは捨ててしまうに限るのだろう。社会人一年生の私は、そんなショボイ先輩や上司をみるたび、とても残念な気持ちになるのだった。
最近、「社会は甘くない」という言葉の真意が掴めた気がする。そう、こんな気持ちわるい、ネガティブな人たちがいっぱいいるところなのだから、社会は厳しいところだ。
かくいうわたしもその1人で、以前、訳本で読んだ哲学者を思い出しつつ、この、西さんの改めてその哲学者達の思想に焦点をあてた、彼なりに解釈した考えを平易な文体で表現することで、哲学に対しての構えを取り除き、みんな感じた事のあるシンプルな思いを哲学的(!)に知らせてくれる希少な本です。
思いに「かたち」を与えることー彼は本文に入る前の自己紹介的な文でこの本のもっている特徴を親切にもあきらかにしてくれている。
ニーチェ、ハイデガーの哲学を一定の距離を持って、もちあげる要素がなく的確にひも解き、導き、批評する姿勢。ポスト・モダン思想に対する明晰な批判。
個人的にはロックバンド経験という共通項があるのを知ったことは、安易ながらも、この著者への更なる共感にもつながった。
出口なし、とこの世の中の閉塞感に苛まれやすい人も、漠然としている直観をもっとすっきりさせて明日につなげたい人も、絶えず模索して生きる喜びを分かち合いたい人には特に、老若男女問わず、読んでほしいと思う本です。