簡潔!
★★★★☆
この本、3回読みました。ローマの歴史をビジネスマンとして教養として学んでいるが
この本はよくまとまっている。全体の流れとキーパーソンの動向が端的に述べられている。
1000年近く続いた組織がなぜ存続し、そして滅びていったのか、この問題意識に
対しての基礎的な素材を提供してくれる。
まさに「全ての道はローマに通ず」 !
★★★★☆
著者が、歴史上唯一「普遍帝国」を築いたとするローマを考察する事によって、現代の日本が抱える問題解決の端緒を見い出そうとした本。ここで言う「普遍帝国」とは、ローマが倒した相手国を滅ぼしたりせずに、むしろ"同化"させ、市民権を付与したり、積極的に人材登用する等、民族・宗教を乗り越えて隆盛を図った国を指すようだ。
ローマが、王政→共和政→帝政と移行した事は周知の通りで、本書もその歴史をなぞっているが、その中でポイントを掻い摘むと以下の様。
・国防はローマ市民自身のもの。傭兵には頼らない。また、「国防=直接税」である。
・特定の観念論に依存しない。人間性を冷徹に見据え、現実的対応を考える。
・冒頭でも述べた通り、生まれや血筋より能力主義に徹する。
・元老院(=人材のプール)を非世襲制・終身制とする事で政治の安定化と新陳代謝の両面を図った。議員は真の「貴族精神(noblesse oblige)」を持っていた。
・イザとなった時の団結心・プライドが高い。貴族と平民との関係も"信義"だった。
・改革には長い時間が掛かる。優先順位に従って問題を一つづつクリアして行く。
・ワンマンよりも組織力(寡頭政体)。信賞必罰は不要。勝者と敗者の融合が大事。
・ハード(道路網)、ソフト(ローマ連合)両面のネットワークの充実。
・自身のアイデンティティを大切にすると共に、成功体験に依る動脈硬化を避ける。
・「平和=軍事力」を維持するためのシンプルな税体系。相続税と売上税の目的税化。
・社会福祉政策における"民活"の利用。
題意に沿う様に書かれているとは言え、まさに「全ての道はローマに通ず」と言った内容で、現代の日本の問題を考える上で参考とすべき点が多い啓発書だと感じた。
「ローマ人の物語」が問いかけるリーダーシップ論
★★★★☆
「ローマ人の物語」の前半部分(ローマ建国から帝政樹立まで)をエッセンスとして、リーダーシップ論、国家・政治家のあり方論、現代日本への提言などを展開する評論。
塩野氏は「ローマ人の物語」のなかでは、自らの筆で現代への提言的な表現をすることを控えているように感じましたが、本書では、「ローマ人…」で主張しようとしていたことを赤裸々に語ってくれています。
構成としては、ローマ建国から時系列的に章立てされていて、その時期その時期のローマの置かれた環境とローマ人たちの対応ぶりについて簡単にまとめ(「ローマ人…」のダイジェストといってもいいでしょう)、時のリーダーたちに評論を加えていきます。
特に(国家の)リーダーシップ論は秀逸。塩野氏のカエサル好きには苦笑させられますが、政治家と有権者の関係や国家政体のあり方論など、まさに現代日本に通じる視点も多く提供されており、「歴史に学ぶ」という意味では好著。
付録の「英雄たちの通信簿」も個性的なローマのリーダーたちがキャラクターづけされていくようで面白かったです。
「ローマ人の物語」の副読本としてどうぞ。
自分の頭で考えなさい
★★★★★
ローマ人はリアリズムに徹して人間を考えた――だから、筆者はローマ人に興味を抱くという。私には、ローマ人を見る筆者の眼差しにこそ徹底したリアリズムが感じられる。
「あらゆる歴史の物語はそのディテールにこそ本当の醍醐味がある」という筆者が、本書ではあえて細部には触れず、人物中心にローマ史を概説。最終章で日本の「混迷」ぶりにメスを入れている。混迷の原因は「戦後の急速な経済成長」であり、成長があまりにも急激だったため、国内のシステムがついていけず、改革のタイミングを失い、旧体制から抜け出せないでいると指摘。
「政権交代」が起きた今、その旧システムが劇変する予感があり、とにかく政治が面白い。毎日、目が離せない。これからの日本はどう変わっていくのか? ぜひ、そこを筆者に教えてほしいところだが、「これだけ考え方のヒントを伝授しているのに。あとは状況をよく見つめて、自分の頭で考えなさい」 そう筆者に諭されているような気になる。日本が大きく変わろうとしている今こそ、本書を熟読して将来を見すえる好機かもしれない。
日本人なら何に求めたのでしょう?
★★★☆☆
壮大な長編作「ローマ人の物語」でおなじみの塩野さんによるローマ史を知ることで日本の現状をより把握しやすくしよう、とする試みの本です。
しかし、そんな塩野さんの「ローマ人の物語」のある意味美味しいとこ取りの抜粋で、さらに政治とは何か?あるいは現代日本の混迷の原因を探る何かに繋がれば、という立場で書かれたローマ史を通しての政治に対する塩野流考え方が展開される作品です。歴史に沿っての解説とそこから汲み取れるものを書かれています。
「ノブレス・オブリージュ」の解釈について、いろいろな統治形態、拒否権の強力さ、塩野流リーダーの条件、武力という権力を握らなければ出来ない改革、リアリズムと見ていたい現実のギャップに気がつけること、などなど。もちろん全てにおいて同意できるわけではありませんが(と、はっきり言えるほどまだ歴史にも政治にも固まった意見さえ無いのですが、少なくとも吟味してみたいとは思える内容はあります)なかなか面白く、そしてほぼ言い切ってくれる気持ちよさは、司馬さんにも通じるものがあるように感じられました。
私が特に面白いと感じたのは「人間の行動原理の正してを、宗教に求めたユダヤ人、哲学に求めたギリシア人、法律に求めたローマ人」という部分です。
また、マキアヴェッリ、そしてカエサルという2人は(もう1人加えるならば、アウグストゥス)についてはまさにもっともっと知りたくさせる、それでいて天才だ、ということが認識出来ます。とくにカエサルは面白く、そして天才ですし、表舞台に出てくるタイミングとしても、ドラマチックでいて凄すぎですよね。それを再認識させるマキアヴェッリ、マキアヴェッリを通して再々認識させようとする塩野さん、という図式だと思います。
日本の伝統とは何なのか?あるいは日本人にあった政治形態とは何なのか?という部分にまで踏み込んでもらえたらより面白かったと思いますが、今現在の日本の置かれた状況を嘆く気持ちは理解できますし、改革に対する考え方ももっともだと思います。言い切ってくれる気持ちよさは癖になりそうです。
歴史に興味ある方に、オススメ致します。