戻って進化した?
★★★★☆
弁護士×英語塾経営
適度な愛想と完璧な仕事。心は冷徹で計算高い攻・久我山
真っ直ぐで誠実で熱心な元高校教師。受・曽根
友人と行った通夜の帰りに事故に遭い、突然のタイムスリップ。
14年前の己の体を31歳の自分が入った状態になり、2度目の高校生活を送ることに。
大人の視点で高校生活を見渡してみると、見えなかったものが見えてくる。
当時は冷めた感情しか持っていなかった曽根先生が、実は熱心で誠実な先生で、
とても魅力的な男性だったことに気付き、新たな感情が芽生える。
仕事も恋愛も熱い情熱を傾けることなく手に入れてきた久我山の恋。
激しさ・嫉妬・切なさ・悲しみ・・・31年間知り得なかったこの感情は、間違いなく初恋。
間借りした体の中で31歳の心がグンと成長し、人の痛みを感じることのできる人間になります。
悩みを抱える曽根に対して、31歳の自分なら出来るかもしれないことが、
生徒であり未成年である自分の体が、14年前という時代の違いが、それを阻む。
もどかしくて苦しくて、でもやっぱり好きで・・・
そして、再び現在に戻った久我山が知る事実。
多少、ご都合主義的な事実ですが、それでも"良かった・・"と思った。
新たな形で始まった二人の、15年分の想いがようやく結実した時、
二人を包む温かでやわらかな幸せ色が伝わってきました。
SFガジェットを取り入れた地味BL
★★★☆☆
シリアスものなのでいつも通り泣いちゃったんですが、
この作家さんの作品にしては華がなく、他の方の作品と言ってもうなづいてしまう感じ。
私はこの人の、ケレン味が大好きなので、もっと明るい華やかな作品の方が個人的に好みです。
そのケレン味が、今回はタイムスリップ的な要素で、
致命的な「あの事」が目覚めると変化していて、ああ、よかった…となる事がそれに当たるんだと
思いますが、ああいうふうに始まって展開したら、そういうふうに終わるしかないだろうと
考えれば当然の結末で、BL以外のミステリーやSFでは真新しいものではないので、
その点で感動したわけではないです。
で、それをはずすと内容が内容なので全体が暗く、片思いの初恋の切なさも、DVなどが混ざってしまうためか
胸キュンという感じではなく、私としては個人的に登場人物の、特に受の先生に魅力を”全く”感じなかったのでこの評価です。
ぶっちゃけ、萌えなかったの(笑) BLを読んで指先までジンとするあの「萌え」がなかったの!
攻がどれほど受を想って切なくなろうと、私自身が切なくはならなかったんです。
基本的に攻の一人称で、最後に受視点での短編があるんですが、どちらにも感情移入できず。
どんでん返しならジェフリー・ディーヴァー読めばいいんですもん。
うまい作家さんで読み応えはあり、いつもながら破綻もない(急にくっついちゃうなどの意味不明な急展開がない)ので、
この作家さんの中での個人的なレベル評価という意味での★3です。
古典的な物語がこんなに新しいとは
★★★★★
自己中心的で打算のかたまりみたいな男・久我山が、調和のとれた人になって終わる!
他人のために自分がしてやれることはないか、って必死に足掻くんです。
本当にけなげなほど必死に。
確実に生き方が変わったのに、最初の彼と終章の彼は紛れもなく同一人物であり、彼の心の動きを一緒に辿って来て、彼の変化にちゃんと納得できるんですよ!
榎田さんの心理描写はいつも飛躍のない、繊細なものですね。唐突さや理屈っぽさもない。
久我山の化学変化を引き起こしたのは曽根先生ですが、この人も最初はイラッとくる人物です。
純粋で脆く、頑張れば頑張るほど、空回りするタイプ。むしろウザイ人の一歩手前かなぁ、と。
ストーリーの大筋は、過去をいじることで未来が改変される、という物語にみえます。
けれど過去に飛ばされた久我山が直接、未来を操作できたのかな?
彼は確かに操作しようとして足掻いていたけれど・・・。
外形的には、途中で久我山が未来操作に失敗したかに見えるのです。
でも!
未来を改変したのは、むしろ曽根先生だった?
曽根先生の中にも化学反応は起こっていて、久我山からほんのわずか強さをもらったのでしょう?
強さのタネが曽根先生の中で徐々に育っていたからこそ、ある時、強靭さとして先生も自分で運命を変えたんだと思います。
それが久我山の予想しなかった未来であっても。
最後にそれがわかって、この運命の勝利みたいなものは、結局、久我山と曽根先生のふたりでゲットしたんだなぁ、と嬉しくなりました。
これが、はつ恋というものなのか。
★★★★★
教師と生徒として出会った二人。「運め」みたいな実体の無い様々な障害のなかで、時を越え、運命と闘い、14年後、やっと「はつ恋」を手にした、そんな物語。と思うっていうか、端的過ぎて、ごめんなさい。この作家さんが書くキャラは、実はとても不幸で悲しい。成功者でも、そうじゃなくても、度合いの差こそあれ、自己否定が必ず底辺にある。でも、なんでだろう。作家さんの体質か、拘りか、わからないけれど、主人公が荒波に揉まれ、悶々としているなかでも、飄々とした風のようなものがそこにあり、主人公がどんな立ち位置にいても、読んでいてただ痛みだけを味わう様な不快さが無い。だからと言って無味になるのではなく、筆圧というか熱みたいなもんが、この作家さんは凄い。特にキャラだてがいいっ!主人公たちの生き様の説得力になっている。斜に構えながらでも、不幸体質でも、それぞれの立場で一生懸命に生きている。だからこそ、簡単に主人公に自己投影でき、その世界に誘われる。主人公の幸福は、誰の目からみても幸福という類のものではない。彼だからこそ、それが幸福と思える、そんな唯一無二の幸福だ。「先生が還暦になっても僕はかわいいと言えますよ」このセリフを主人公の久我山君が手にした時、泣きたいほどの幸福をおすそ分けして貰いました。そして思った。作中にある、この感情に名前をつけるなら恋っていうくだりを読んで、私にはまだはつ恋がないと。アナタより、もちろん年上なんだが、久我山君っ!実に羨ましい本ですっ!
片足ファンタジーなので、読み出しで躓く人は躓くかも
★★★☆☆
人格がタイムスリップする片足ファンタジーなので、読み出しで躓く人は躓くかもしれません。
なんだ、そのありえない設定は…とはじめでやめそうになりますが、これを我慢して進めると一気に開けて引き込まれます。
31歳のシュールな弁護士の意識を持ったまま高校生だった頃に戻ってしまう久我山と、当時は馬鹿にしていた本当は素晴らしい教師であった曽根。
曽根が死んだというところから話は始まるので、余計に生きている昔の曽根がリアルに感じます。
結果を判っているからこそ二人の間の話や出来事が生きてくるというか、終わりがあるものが輝くの典型パターンと言えるでしょう。
最終的には悲しい結果にはならない、まあファンタジーお約束のドンでん返し?によって全てはまるく収まり、かつ久我山は当初の人格を再編成するチャンスを得たことで人の痛みや他人の気持ちがわかる本当の「恋」を知る男に成長をとげます。
そっけない自己中心的な男が、優しさを知り、相手を優しく扱う姿は、最初から優しい人間のそれよりも余計に優しく見えてしまうところがツボ。
最後、このタイムスリップの種明かしがあり、多少気分的には醒めるのですが、まあ結果久我山が恋心というものを知って曽根とこれからも一緒にやっていくという無難なオチ。
最初の出だしが毛色が変わっていたので、最後は尻つぼみ的に感じました。