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「金融工学」は何をしてきたのか(日経プレミアシリーズ)

価格: ¥893
カテゴリ: 新書
ブランド: 日本経済新聞出版社
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推奨 ★★★★☆
日本の金融工学のパイニア的存在である今野浩氏の最新著作。リーマンショック後に再び勢いを増した金融工学悪者論に対する今野先生の反論の書とも言えるだろう。前著『金融工学の挑戦』も構成と筆力の見事さに唸らされたが、本著もまた見事。物書きとしても一級の方だと再認識した。また、どのような分野であれ、第一級の研究者は語りには鋭くも豊かな知性が感得できる。本書を通して、金融工学研究に対するゆるぎない信念を披露しつつ、「これまでアメリカ的経営や市場万能主義の先頭に立ってきた人が、“ザンゲの書”なるものを出版している」(p.32)と、金融危機の余波で学問的危機にも陥る一部の学者の節操のなさを難じている。この一文を読んで「私は懺悔の気持ちをもってこの本を書いた」と臆面もなく宣伝してベストセラーをものにしたI.N氏を思い出した。無謀な投資を煽る似非投資指南本が氾濫する中で、一人でも多くの若者、ビジネスパースンに本書を読んで、投資の世界を冷静に見つめる眼を養ってほしい。
金融工学はあくまでツール ★★★★☆
金融工学に関して、いくつ解説があるが、難しい数式などは出てこないので初心者でも読みやすい。
本書にあるように、金融工学が発達したことによる恩恵も忘れてはならない。ヘッジをすることで、より安定的な収入を得ることができるようになったり、新しい商品の開発にも役立つ。
問題なのが、それを利用する人たちなのではないだろうか。目先の短期的な利益のみを求めて、自分達の投じたマネーが、どう世界を巡って、どんな影響を与えてしまうのか、ということまで考える投資家は少ないだろう。あくまでも金融工学はツールにしかすぎず、使い様によっては社会の訳に立つし、逆にネガティブな影響を及ぼす可能性もある、という考えには同感。

また日本において、「金融」「お金儲け」という言葉に対するアレルギーがあることについても書かれている。実際、私達の生活には金融が密接に関わっていることからも、今回の金融危機をきっかけに金融から遠ざかるよりも、より多くの人に身近に感じてほしい。
強欲な金融工学者 ★★★★★
 世界的に有名な金融工学者は、実は強欲であるという事実に驚いた。アメリカでは、金儲けをしない金融工学者は歌を忘れたカナリアと同じだそうだ。

 金融に関心があれば、数式がわからなくても十分楽しめる読み物である。
みんな真面目です。でも本当の悪党に技術的な真面目だけで対抗できるのでしょうか? ★★★☆☆
金融工学なるものの定義ははっきりしません。したがって金融工学なるものの解説は本書にはありません。あっても素人にはわかりません。むしろ工学や数学を専攻していた日本の学者がどのようにして、この欲が渦巻く金融の世界に入り込んでいったかが、1980年代後半からの経緯を含めて当事者の口から語られます。それは、金銭欲とは別の衝動にドライヴされた一連の理科系の人々の姿です。もっとも人間の衝動をそんなに単純に割り切ってしまうことができるかどうかは別の話ですが。知的詐欺師が跋扈する国際金融市場へ精神論だけで乗り出していった80年代の後半の邦銀をどうやって、略奪的なプレーヤーの「金融工学」の「悪用」から守るのかが日本の金融工学者の一義的なドライヴァーだったというのです。どの程度その狙いに成功したのでしょうか。いくつかの理論的なブレークスルーは存在するそうです。しかし邦銀の実態はどうでしょう。国際分散投資なるものに乗り出したり、「投資銀行宣言」なるスローガンを打ち出した金融機関の現状は惨憺たるものです。またリテールの顧客に売り出された無数の投資信託の実績は、むしろ日本の金融機関の、日本の「穏健」な文脈の中での、リテーラーとしての詐欺師への変貌への努力とその寒々としたなれの果てを示唆するかのようです。案外、精神論のままの方が被害が酸くなったのかもしれません。著者は市場平均を1%を上回ることは可能だと考えており、そこにこそ日本の金融工学の役割があると考えています。たしかに製造業が衰退する中で、金融が新しい「エンジニアリング・製造業」としての役割を果たすであろうということは説得力のあるシナリオです。そしてそこでは工学的な世界、人間観が見事にフィットするであろうことは言うまでもありません。しかし日本の金融工学者にも、その世界観への根本的な疑念や懐疑はありません。強欲ではない日本のエンジニアにとっては数学はもっと「美しい」のでしょう。
面白い! ★★★★☆
 金融工学は何をしてきたのか、というタイトル通りの本です。金融(ごとき)に崇高なる「工学」を称させることは不適切・・・という冷たい視線を浴びながら、金融工学と格闘してきた著者の金融工学論は、静かに熱く、一気に読める本です。いくつかよくわからないところもありましたが、それを差し引いても「読ませる本」だと思います。金融工学の限界や、金融工学を使っている(と称している?)人たちの怪しさは、実に興味深いです。
 金融工学は、世間のトレンドによって大きくその必要性が喧伝されたり、蔑視されたりと紆余曲折です。その一方で、金融工学によってさまざまな金融商品があらわれ、利便性も危険性も倍増したことは事実です。リスクヘッジのためのサイエンスという科学的な側面と、強欲へと人をいざなう魔力的な側面をあわせもつ金融工学の魅力を感じる本です。