「風土」、ミリュー(Milieu)、含蓄あるこの概念を、ベルクは「ある社会の、空間と自然に対する関係」と定義づけると同時に、他方「自然」という概念を、「人間によっても、人間のためにも、意味を持たないもの」、とスリリングに規定したうえで、季節と起伏に富む日本をめぐり、いかにもフランス人的な軽快感に溢れた学問的記述を紡いでいく。
歴史から捨象されたハイデガーの「現存在」を、いわば歴史化・自然化した和辻哲郎の見識、これを一定程度評価しつつも、さらにベルクは意欲的な筆致で、いわば出来の良い日本論にとどまった和辻の『風土』の一歩先を行こうとする。つまり、和辻の帰納論的・決定論的・人種差別的な視点に批判のメスを入れ、より客観化され一般化された理論の構築を試みる。
それが、「通態的風土学」なるものなのである。これを読者に問うのである。
文庫版解説は、坂部恵氏によるもの。
8ページ足らずの解説文の中に、4度も「ユニーク」という形容を使わざるをえなかった坂部氏の反応からもうかがいしれるように、あまりにも個性的で、評価の難しい本かもしれない。
しかし、それでも、坂部氏の言葉が正鵠を射ている――「難解と同時に再読、三読のたびにあらたな発見と読書のよろこびに恵まれるという、そうめったにはない魅力に充ちた書物」なのであった。