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百鬼園戦後日記―内田百けん集成〈23〉 ちくま文庫

価格: ¥1,260
カテゴリ: 文庫
ブランド: 筑摩書房
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お行儀がよろしくないのである。 ★☆☆☆☆
自分の日記などを人様に晒しては、お行儀がよろしくないのである。日記とは内に秘めたるもの。いくらお酒が飲みたいからと言って自分の日記などで金銭を稼ぐという、そのような心根がいけないのである。確かに自虐的で人間臭のする面白い部分もあることはあるが総体的に非常に退屈極まりないのである。それは単に個人が半ば無理矢理書いたような日記であるからして他ならない。この本の醍醐味は巻末の見送亭夢袋さん、阿呆列車ではプラットフォームの端から先生をストーカーのごとく見送った中村武志さんの「掘立小屋の百間先生」である。実に素晴らしい写実であり先生が目の前に居る様な錯覚さえを覚える。22ページの内容が先生の375ページ分を駆逐しているのである。これは出版社の問題かも知れない。しかし、これでは他の素晴らしい作品群が可愛そうなのである。
風変わりな戦後の記録 ★★★★☆
 戦後を記録した文章というと、敗戦の悔しさであるとか、開放された悦びであるとか、これまでの価値観の崩壊であるとか、総じてそういった重い内容がテーマとなっている文章が多いのですが、この『百鬼園戦後日記』に関してはそういった重苦しい要素は全く入っていません。
 この日記に書かれていることは、収入のほとんどをお酒に費やしながら三畳一間の掘建て小屋で暮らす中年男の呟きであり、その文章全体がなんとも風流な風情を漂わせています。確かに百閒先生の暮らしぶりだけを見てみれば、空襲で焼け出され、小さな掘建て小屋で満足な食べ物もないままに暮らしているのですから、敗戦後という当時の状況を思いきり反映した厳しい暮らしだったのだと思います。しかし、そんな生活状況とは裏腹に、百閒先生の気持ちの持ちようというか、心の在り方というか、そういった精神的な要素というものは極めて穏やかであり、むしろこの貧困生活を楽しんでいるかのようにも思われます。
 持ち前の偏屈と不動の美意識、そして酒に対する飽くなき執着心さえあれば、如何なる苦境もゆるゆると風流千万に暮らしていけるという、ある意味では人間の生き方の究極が、この『百鬼園戦後日記』には描かれていると思います。
 また、蛇足になりますが、百閒先生の日記や随筆の中にもたびたび登場する中村武志氏による解説が巻末に載っているので、こちらの方も必見だと思います。