中でも最も意表を突くのは、この日記の冒頭に書かれている「死の不安」という告白でしょう。随筆や小説といった公に発表された作品だけを読むと、百閒は「死」というものまでも客観視して「死」と現実との狭間でゆらゆらと漂っているような印象を持ちますが、日記に描かれている百閒は「死」を恐れ、毎日ただひたすらその恐怖から逃れようともがいているようにも見えます。
ですからそういった意味では、作品からは窺い知ることができない百閒の生の姿を知りたいという人には必読の一冊といえるでしょうし、単純に日記文学の一つとしてみても、極めてレベルの高い作品といえるでしょう。