議論の精度はまあまあだが、談義の中で「活字にならなかった」情報が満載
★★★★☆
この書より精度の高い考察や分析をなしとげている論文・著作はいくつかあるだろうが、談義の中で「活字にならなかった」機微な情報や逸話が頻出するので、それを手がかりに紐解いていくと、通常の出版物を読むだけでは到達しえない情報に行き着くこともあるだろう。そういう意味で優れた書。なお、終戦前後の昭和天皇についてさらに考察を深めたい方には、名作「英国機密ファイルの昭和天皇」をぜひ読むことを勧める。本書を読んで、日本は終戦前後の交渉において日本語から英語への訳出などがまずくて損をしたという感じは否めない。英語の表現の使い分けもわかったうえで、肝心な時は英語でストレートに(海外マスコミにそのままの表現で新聞などに載ることを織り込み済みで)発信できる人が政府要人には不可欠だと感じた。その点では終戦直後より今のほうが人材の数は多いだろうから状況はやや良いかもしれない。また、日本の、「負けるが勝ち」「ノーガード戦法」的な、葦のようにしんなりしているが底強いところは、強みだと思う。
昭和天皇政治力はすごかった。
★★★★★
本書は、著名な作家、教授の対談形式で幾つかのテーマが語られる。本当に【無条件】降伏だったのか、とか、マッカーサーは何者だったのかとか、東京裁判についてとか、警察予備隊(自衛隊)設立の背景とか、章立ては一般的かつ王道的だったが、中でも崩御後20年になる昭和天皇についてかなり客観的に語られていたのが新鮮だった。
昭和天皇はマッカーサーに利用されたのではなく、逆に彼を上手く利用するような政治手腕を持っていたらしい。 沖縄の米国への租借と引き換えに独立を認めさせようとした点など、憲法や一般大衆の認識とは違い、実に堂々と『国家元首』として振舞っていてマッカーサーがそれにかなり絆されていたという論評が痛快だった。 極めて優れた政略家だった昭和天皇とマッカーサーは10回以上も会見し、昭和天皇が色々と政治取引を仕掛けていたようだ。占領下での昭和天皇の政治手腕を知り、ちょっと痛快な気分になれた
皮膚感覚をともなった理解なしでは本当の解決はできない
★★★★☆
昭和史の論客が集まっての論談集。
テーマ別に簡単な「報告」があって自由に討論する。思ったほど堅いものではなく、初めはお堅い読み物と思ったが、読み進むとなかなか面白い。「国破れてハダカあり」「当用漢字」とかの文化論もあり、いずれも戦中戦後に多感な時代を過ごした論者それぞれの、そのナマな体験や感想も面白い。
「パンパン」とか「オンリー」さんとか、占領軍の米兵や軍属、宣教師、その家族との交流など、今の日本人はほとんど忘れてしまっている。沖縄問題なんかは、こういう皮膚感覚をともなった理解なしでは本当の解決はできないような気さえする。
昭和史論をひととおり心得ていて改めて論点をさらっと俯瞰してみるのもよし、団塊世代が自らの時代の出発点を懐かしむもよし、安保世代や高成長世代に染みついた思い込みを見直すきっかけづくりもよし、だ。
結局、ずっとふたをしてしまって謎のまま、国民が忘れかけていることは多い。ある種の神話がつくられ信じ込まされていることもあるだろう。当時のそのままに固定化された善玉、悪役・敵役が歌舞伎でも見るように「実は…」ということも大いにあり得る。
いま、政権交代で何が変わるかが問われている。とんでもない事実が突然明らかになってあわてふためかないように、戦後史をもっと勉強しておいたほうがよいかもしれない。占領時代はその原点には違いない。