ケルベロス・サーガの一作品
★★★☆☆
押井守初の実写映画『紅い眼鏡』以来、
20年にわたり延々と続いている
ケルベロス・サーガの一作品。
東京首都警を題材としたシリーズが、
偽史構築による日本戦後史の独自解釈という
一歩深い領域に踏み込んでいるのに対し、
本書は舞台が日本人に馴染みの薄いヨーロッパなだけに
思想的動機的に物語を前に進めていく力が弱く
その分、銃器や戦史や食事に関する押井守独特の
饒舌な薀蓄が浮いてしまっているのではないか。
滅びの美学も、それを映さんとする映画人の気概も
残念ながら今一歩と感じてしまう。
押井ファンだけではなく、ミリタリーファン、戦史ファンなら見逃す手はない!
★★★★☆
第二次世界大戦中、ヒトラー暗殺は成功するが、戦争はまだ続いているというifの世界を舞台に、東部戦線の最前線スターリングラードに投入されたケルベロスと呼ばれ忌み嫌われる独立戦闘部隊と、その部隊の記録映画を撮ろうと本国から派遣される宣伝中隊の女性将校を主人公に描く同名ラジオドラマの小説版。
ケルベロスはプロテクトギアを装備した部隊で、アニメ「人狼」等につながるケルベロスサーガの前史とも言うべき内容になっている。
前線から遠く離れたベルリンより装甲列車、補給段列を乗り継いで最前線に向かう前半部。先々で耳にするケルベロス部隊の血塗られた噂、ようやく部隊に相まみえた最前線の廃墟、篝火だけが灯る深夜のシーンは圧巻。
まさに全編に渡って作者のウンチクが傾けられ、登場人物たちは(押井作品の例により)語るに語り、実在人物、用語類には各ページに詳細な脚注が施される。独ソ戦の実相、装甲列車、補給部隊、狙撃兵、列車砲、巨大火砲、セヴァストポリ攻略、スターリングラード、1942年の南方方面軍の戦況などなど・・。
常に激戦区、さらに全軍の殿軍を任され続けるケルベロス部隊、魅入られたように最後の最後までついて行こうとするヒロイン・・。押井的美学に彩られた世界が展開する。
硬質ではあるが文書は意外にも読みやすく、押井ファン、ケルベロスサーガファンはもとより、架空戦記とはいいながら質実剛健な展開もあり、ミリタリーファン、戦史ファンにもおすすめである。
証言者の言葉
★★☆☆☆
私は残念ながらラジオドラマの「鋼鉄の猟犬」は何も知りません。ごめんなさい。
しかし、読んでいるうちにところどころ「しんどい」とか「食べ物が多いな」とか「台詞が長くて分かんない」
などと読者もいるでしょう。が、元はラジオドラマに過ぎないことから小説版はこのようになっては仕方がないと思う。
押井守をよく知っている人にはこの作品の内容を読んでみればある程度理解出来ると思う。ケルベロスや食べ物や軍人物語や
兵器満載のなんでもいい形の見どころは押井さんの特徴なのだ。
私の先生は実は「鋼鉄の猟犬」に出演していて、現場の話もよく話してくれました。本人も「もの凄く楽しかった」と
言っていました。声優さん方は「鋼鉄の猟犬」の絵コンテを見ながらやっていたそうです。ただ、小説に乗る挿絵に関して
絵コンテと全然違ったそうです。素晴らしい絵で数も膨大だったようで、挿絵だけが何故あのような形となってしまったなのか
不思議です。
ぜひともCD化して聞きたい!押井さん、お願いします!
押井監督らしい作品です
★★★★☆
第2次大戦時の兵器に対する薀蓄が怒涛のように描かれます。
それにワクワク出来る人なら読んでいて楽しいのではないでしょうか。
後半、ケルベロス隊(←敢えてこう書きますが)の滅びが主題に変わってくる事が
主人公の映画撮影に対しての意思が読み取りづらくなってるかな、と。
ただ、これに関しても押井作品(映画含む)ならば普通によくある事だと・・・
まぁ、自分が読み取れていないとも言えるかもしれませんが。
読後、悲劇や滅びの美学だけじゃないエンターテイメント満載の押井作品が見たいと思ったのも事実。
そういう意味では劇場版パトレイバー1作目は異色作なのかもしれません。
木更津航空隊
★☆☆☆☆
押井氏の書き下ろし小説、そして氏のライフワークである題材として興味があり手に取ってみた。私はこのシリーズの事は良く知らず、ラジオドラマ等も聞いたことが無いのでフラットな感情で手に取ってみた。
まず、出だしはなかなか味のある印象で期待感が持てる内容であった。しかし、しかしである。読み進むうちに苦痛になってきた。まず、
・ドイツ、ロシア双方の参謀本部発表の報告書を読んでいるような印象
・登場人物の心理描写(情景からの心理的移り変わりも含む)が非常に下手
・物語に直接関わりの薄い(もしくは無い)兵器の“これでもか”という説明
・主人公が何をしたいかが分からない。また、伏線に失敗している
上げ始めたらキリが無いが、全体としての印象は、昔パソコンゲームが一般化する以前に流行した戦争ボードゲーム“シュミレーションゲーム”の内容を読まされているような印象を受けた。
氏のファンの方には申し訳ないが、自己満足の世界を出ていない“読み物”でしかない。