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終りし道の標べに (講談社文芸文庫)

価格: ¥1,029
カテゴリ: 文庫
ブランド: 講談社
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命短し読み急げ若人 ★★★☆☆
主人公は、満州の地に流れ着いたひとりの日本人青年。故郷とのつながりを断ち、家族を捨て、恋人を捨て、戦争から逃れた彼の手元には、ただ鬱々と自らの思想をつづった一冊のノートだけ。ひょんなことから彼を拾った盗賊団の大物に目をかけられ、ノートの秘密をいつか明かすことを担保に、日々は過ぎていくのだったが…。
執拗に繰り返される青臭い観念と、閉じた空間にこだまするモノローグは、現在の読者にとって特に目新しいものではない。それはちょっとばかり自意識過剰で、それでいて自分が何者でもないことをどこかで意識しつづける、いつの時代にもいる若者のひとりごとに過ぎないからだ。
しかし、だからこそ、主人公の痛々しいモノローグはある種の読者の心にダイレクトに突き刺さる。

太宰『人間失格』しかり、サリンジャー『ナイン・ストーリーズ』しかり。ある種の小説は、特定の時期を過ぎると途端に色あせ読むに値しない駄作に感じられてくる。だが幸運にも「特定の時期」に出会った読者にとっては、その小説はなにものにも代えがたい珠玉の一冊となるだろう。
読者の大半は、時には壁にぶつかって悩み、やがて人並みの幸福の恩恵にもあずかり、世間を生き抜く知恵をつけつつ、やがて老いぼれていくだろう。残念ながら、それは事実だ。
対してこの小説の主人公は身体を壊し、阿片の深みにはまり、生きる屍となって汚濁の中に朽ち果てていく。その姿は美しい。それはもう、涙が出るほどに美しい。

自分にはなにもない、それでもなにかできるにちがいない、でもそれがなにかわからない。
これはそんなあなたのための小説だ。これを読み終えたとき、あなたは何も成長していないだろう。でも、きっとこの小説を好きになる。
だから、老いてしまう前に、早く。
哲学的小説 ★★★★★
この作品には「実存」が秘められている。
始めは「T……」の、他人にとっては何ともないであろう、しかし何があるか分からない「秘密」を巡る、推理小説のような展開をしていく。
そして、読み進めるにつれて、明らかになる「秘密」の各所に散りばめられた、雪のような思弁、思索を見出すことだろう。
それが「終りし道の標べに」だ。
それらは《斯く在らねばならぬ》という「存在」、「物」、「存在象徴」といった形而上学的問題から「愛」、「友情」、「安らぎ」、「憎しみ」など人間の根源的な感情等々、多彩な領域を有する重厚なサスペンスのように、事を織り交ぜながら書かれていく。
ここには、確かに「一つの世界」が開かれている。安部の言葉のように「非小説」的な「一つの世界」が広がっている。
また、埴谷がこの作品に何かしらの予感を感じたのだとしたら、それは、彼の言うところでの「自同律の不快」がその文章、その行間から醸し出され、感じられる点があるからであろう。
それにしても私は、一体、何を書いているのだろう。
この「小説」に「解説」めいたことなど必要ないのに…。
何が私をして、このようなレビューを書かさせているのか…。
精神分裂病者のようだ。
ああ、名も分からぬ声たちよ…。
最後に、読者として言えることは、この「一つの世界」をそれと共に生きた、存在感覚を感じたということだけだ。
安部の出発が始まった幻の処女作長編…。
安部ファンならば必読の書と言えるだろう。
安部公房の処女長編作 ★★★★☆
昭和23年に真善美社から発行された安部公房の事実上の処女作を、新漢字・新かな遣いに直したものです(原典は旧漢字・旧かな遣い)。原典は国会図書館でも閲覧は可能なものの、複写不可となっています。また、古本市場でも、非常に高価なうえに、状態の良いものを入手するのは難しく、しかも、旧漢字・旧かな遣いで、素人には解読不可能です。
難解な作品ですが、長い間、まぼろしだった作品で、安部の出発点がここにあります。安部ファンを自負する方は、是非一読してほしい作品です。