読みやすいw
★★★★★
この作品は安部作品の中でも比較的読みやすい作品だとおもう
すらすら読ませる力のある作品でもある
この自称火星人の男と主人公とのやりとりは
緊張感があり、ぐいぐい引き込まれていくこと間違いなし
この自分の家に凶暴な男が入ってくるという設定がなんともいえない
緊張感を生み出しているのだろう
代表作として名前があがってもおかしくないと思う
君は・・・人間?
★★★☆☆
「こんにちは火星人」という番組を作っているあるラジオ作家のところに、自分は火星人だと主張する一人の男が訪ねてくる。
火星人は、「人間そっくり」であり外見から判断することはできないのだという。最初は、ただの狂人だと考えて対応する作家だが、「火星人」ののらりくらりとした話術でイラつきと不安を感じるようになり・・・。
自分が人間であるということをどうやって証明できるのか。
また、自分が正常な人間であることをどうやって証明できるのか。
「当たり前」だと考えていることが、実はとても不安定な基盤によって立っているということをつきつけてくる。「火星人」という男の行動や話しぶりは、とても不快でありながら妙な説得力をもっており、主人公の作家だけでなく読むものにも不安な気分をもたらす。「ドグラ・マグラ」にも似た感覚がある。
面白くはない、けど。
★☆☆☆☆
黎明期SFに対し「でもさ、あれ面白いぜ」と好意的であったのは日本の文壇において数少なかった。安部公房は、その数少ないひとりであった(それは、新らしいモノ好きの性格によるものであったのかもしれないが)。
日本的私小説を毛嫌いし「不条理」と評された安部にとって、SF的道具立ては親和性の高いものだったのだろう。
実作者でもある安部は、果敢にSF的創作に挑んだ。
その成功例が『第四間氷期』であり、失敗作がこの『人間そっくり』である。
ある日ラジオパーソナリティのもとを自称火星人が訪れる。自らが火星人であることを納得させんと彼はカタりつづける。最初はとりあわなかったラジオパーソナリティの常識はやがてもろくも崩れ去り、そして…というお話。
オチは異なるが『人間そっくり』には原型となる短編があった。感心できるオチではなかったが(そこは『人間そっくり』では改善されている)、コントともいうべきこのお話は短編で十分だっただろう。分量的には中篇ともいうべき『人間そっくり』だが、なにしろ長く感じる。読んでて面白いとは、残念ながらいえない。
多分それは、カタりの文体に見られる硬直性が原因だろう。不自然なのだ。こんなカタりで納得させられるとはおそらく読者は思わないだろう。
しかし注目すべきは、SF的小道具を持ち出したことではなく、安部が「饒舌」それだけで一冊書き上げられるということに気付いたことだろう。カタりの技法は、『箱男』『密会』を経て、やがて『方舟さくら丸』に結実する。
面白くはない。だけど、安部公房という作家を知りたいのなら、読まなくちゃいけない。これはそういう本なんだ。
認識の曖昧性を滑稽味で描いた秀作
★★★★☆
「人間そっくり」とは「人間そっくりの火星人」の意である。SFの設定で、主人公の身の回りの人間が何時の間にか元の人間ソックリの宇宙人に入れ替わっていた、と言う地球侵略物があるが、本作はその真逆を行っている。主人公は、「こんにちは火星人」と言う寓話的ラジオ番組の脚本家。時あたかも火星ロケット着陸成功のニュースが入り、主人公は番組打ち切りに怯えている。火星ロケット着陸によって「殺されたのは、火星人ではなく、ぼく自身」と言う主人公の慨嘆は科学全般に通用する鋭い考察。そして、主人公の家に突然現われたファンと称する青年は「自分は火星人」と名乗る。名乗る直前に、青年の妻と名乗る女から「夫は精神分裂症」との電話が入るのだが...。
数学で公理が証明出来ない様に、主人公は青年を「火星人ではない」と証明出来ない。主人公と青年との掛け合い漫才は50頁程続くが、堂々巡りで笑わせる。"当然と思える事も、イザ証明しようとすると難しい"と言う教訓も入っているようだが、ここは素直に笑う所だろう。そして青年が出す名刺には「火星協会 土地分譲係」の文字が。つまり火星の土地のセールスマンと言う訳だ。欧州から新大陸へ移民した人々の末裔がアメリカ人を名乗っている事を考えれば青年の主張も一応の筋が通る。増々真偽不明である。領土占有権を主張し合う国々への皮肉でもある。更に青年は、当日の体験を「人間そっくり」と言う題名の小説として発表したらと主人公に勧める。トボケタ話である。再度、青年は自分が火星人である事を主張する。堂々巡りのようだが、最後の逆転の構図が鮮やか。
寓話性・戯画化の強い作風は安部氏の特徴だが、本作は特に滑稽味を意識しているのではないか。その中で、認識の曖昧性、科学の進歩と人間性の問題を扱った秀作。
私は誰ですか?
★★★☆☆
随分、前に「壁」を読んだことは、あるが、彼の作品は初心者です。
「人間そっくり」は、1966年の9−11月にSFマガジンに掲載され、1967年に早川書房から出版されている。
私は火星人であるというセールスマン(地球人?)が、主人公で火星のネタでラジオ番組を作っている先生の家にやってくる。同時に、電話がなり、その訪問者の妻だと名乗る人から「凶暴性があるので、30分以内に行くからうまく応対してください」頼まれる。最初は先生の奥さんが対応するが、そのうちに先生が応対し、火星人論議となっていく。人間そっくりなのが火星人なのか?地球人なのか?だれが証明できるのでしょうか?という問いかけです。いったい何が本当でなにが嘘なのか。何が本物で何が偽物なのか。あなたは証明できますか?
「そう、ぼくは、なんとしてでも知りたいのだ。いったい、この現実は、寓話が実話に負けたせいなのか。それとも、実話が寓話に負けたせいないのか。法廷の外にいるあなたに、お尋ねしたいのです。いまあなたが立っている、その場所は、はたして実話の世界なのでしょうか、それとも、寓話の世界なのでしょうか・・・・・」(本文から)
著者が、1924年(大正13年)東京生まれ、満洲育ち。1992年没(平成4年)。
代表作品
デンドロカカリヤ、壁、闖入者、東欧を行く、砂の女、他人の顔、燃えつきた地図、箱男、密会、方舟さくら丸、カンガルー・ノート、飛ぶ男。終りし道の標に、けものたちは故郷をめざす、終りし道の標に(改)
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