ヴェネツィアの誕生と、驚異の政体、細やかな風俗描写
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西ローマ帝国末期の5世紀、ゲルマン蛮族の侵入から逃れるためにやむを得ず干潟の上に逃れた人々がいた。今では観光都市として賑わうヴェネツィアの始まりである。
この上巻では、イタリア都市に恋する著者が勃興から13世紀までを生き生きと描いてくれる。
なぜヴェネツィアだけが比較的安定して1000年以上存在出来たのか。徹底的な商人気質のヴェネツィア人が、宗教からの適度な距離を保ち、専制君主の出ない共和国政体に自らを変革したことが最も大きな原因であろう。
公平さを保つための仕組みには関心するばかりである。元首や政治家の選出にはクジ引き(!)と選挙を繰り返す。任期も短い。再選の条件も厳しい。公務員に決定・指導権はなく、あくまでも政治家になった貴族が主導する。性悪説に基づく相互監視体制が元首も含めた政治家・国民に対しても敷かれる。
政治や戦争を中心とした歴史物であるが、女性ならではの観点から当時の女性の風俗についての考察も見逃せない。
納得した
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3年前、何の予備知識もなく立ち寄ったベネチアで感じた、「何で島なの?」「どうして街中テーマパークみたいなんだろう?」という疑問に答えてくれました。領土をほとんど持たない都市国家ベネチアが1000年以上も存続した、学校の歴史では教えてくれなかった史実に感動して夢中で読んでしまいました。テーマごとに書かれており、年代が前後して頭が混乱してしまい、ベネチアの隆盛期がよくわからなかったのが残念。
1000年の歴史を感じる名作
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かつて地中海世界に燦然と君臨した都市国家、ヴェネチア共和国。その1000年余の歴史を丹念に追った傑作歴史文学。
フランク族の侵入から逃れた人々が、干潟に移住したのがヴェネチアの起源。以来、その歴史は、常にとどまることのない不断の努力によって支えられていた。
海運と交易をもって歴史に名乗りを上げた創成期。
海軍力をもって十字軍に参戦、コンスタンティノープルを占領し、ライバルのジェノヴァを抑えて地中海の制海権を握った成長期。
無敵の海軍で地中海を我が海とし、芸術の繁栄も極めたルネサンス期の全盛期。
新興国オスマン・トルコとの闘いに苦しみながらも、工業国家、そして農業国家へと構造転換することに成功した後期。
国家としては小さなものになりながらも、観光都市として最後まで輝き続けた晩期。
そして18世紀末、ナポレオンに占領される事で、国家は静かにその終わりを迎える。
本書の面白さは、国家をあたかも一つの人生のように眺め、国家体制や産業構造の変遷も含め、国自体を一つの人格としてトータルに描いている事。人間と同じように、国家における幼年期〜青年期〜中年期〜晩期がつまびらかに描写される。そしてその歴史は、素晴らしい人生がいつの時期も輝き続けるように、時代ごとに異なった輝きをもって、1000年の時を刻み続けた。
本書は人物本意のありがちな歴史本ではない。むしろ個人より組織というものが大事にされていたヴェネチア共和国を描くにあたっては、過剰な人物への思い入れは正確な描写の妨げとなる。国家自体を一つの人格として描くというこの手法、ヴェネチアを描写するのに最適な手法と感じさせられる。
本書を読んで、筆者塩野氏のヴェネチアへの限り無い愛情を感じると共に、かつてこのような奇跡のような国が存在したことを知って、自分自身へのかけがえのない財産となった。日本では知名度の低いヴェネチア共和国であるが、その歴史はまさに人間の可能性を感じさせられるたいへん素晴らしいものだ。もっと多くの人に知られてよい歴史だと思う。
本書は通算2回読んでいる。一回目は10年以上前に日本で、二回目はヴェネチア旅行の際に旅のおともとして。本書を読んでから、私もすっかりヴェネチアびいきである。
塩野氏の歴史文学では”ローマ人の物語”と並ぶ双璧だと思う。一生を共にしていけるような素晴らしい本に出会えた事に感謝して5点満点献上。
海と結ばれた栄光の都市国家千年の興亡史。ここから日本が学べることは。。。
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以前に「文芸春秋」に、”有力者のえらんだ日本のわかいひとたちにおすすめの歴史書”、みたいな特集があり、トップ3にはいっていたのです。それで初めてよんだのですが。。。
日本とおなじように海洋国で、貿易により繁栄を築いた栄光の国、ヴェネツィアの興亡史。強烈におもしろく、一気に読ませていただきました。
フン族の王アッテイラの攻撃から都の形成、貿易の成功による経済大国としての繁栄、途中でレパントの海戦やコンスタンティノープルの攻防を含む十字軍の戦いのサブストーリイも魅力的で、そして政治・外交能力の低下とともに影響力が下降してついにせめ滅ぼされるまでの壮大な歴史絵巻。
ヴェネツィアの成功の歴史は実に、戦後から近年までの日本と酷似しているのです。国家の原動力は強力な経済の活気であり、そしてともに海洋国家で大海という天然の国境に守られていましたが、ともに同じ運命を歩みかねないのではないか。。。少々心配になります。
日本人の先輩たちがこのくにの未来を背負うこれからのかたがたにぜひよんでほしい、と選んだのは同感で、よくわかります。名著であり、星5つ、絶対のおすすめ歴史モノです。
ローマ人の物語シリーズが終わることを心配な方へ・その3
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これまでこのレビュー・タイトルで、「神聖ローマ帝国」と「ビザンツ帝国」の本について書きましたが、ローマ人の物語シリーズが大団円を迎えた後、お薦めする作品の大本命は同じ作者による本作ということになるでしょう。残念ながら文庫本は品切れのようですが、私が持っている文庫本版で上下巻併せて千頁を超す大作。ゲルマン民族に追われ、撃退して独立を保ってから、ナポレオンに滅ぼされるまでの、ヴェネツィア共和国(いかに徹底して君主制を排除したかも丁寧に書かれています。)の悠久の千年の歴史は、必ずや読者を惹きつけてやまないでしょう。ヴェネツィアを中心に、ライヴァル国(例えば同じイタリアならジェノヴァ等の他の海洋国家、イタリア外ではビザンツ帝国やオスマン・トルコ)との抗争、他のイタリア都市国家や法王との集合離散など、イタリア千年の歴史を俯瞰するのに格好の本です。作者には「レパントの海戦」等、本書に取り上げられた1エピソードに焦点を合わせた一連の好著がありますが、まずは本書でマクロ的にヴェネツィアを中心とするイタリアの通史を抑えてから、個々のエピソードの本を読むとよいのではないでしょうか。聖地巡礼パック旅行やヴェネツィアの女たちといった章もあり、本書は当時の人々の生活に目を配ることも忘れていません。これだけ充実した内容でこの分量、一度読み始めるとまさに巻を置くこと能わず、読書の醍醐味を味わうことができるでしょう。