「小説」というより「原作要約文」
★★★☆☆
他のレビューをみると、かなり評価が高いですが、個人的には「ふつう」でした。
「つまらない」ということはありません、おもしろいといえばおもしろいのですが、それは、「十八史略」原作そのもののおもしろさであって、陳舜臣氏の筆致によるおもしろさでない、というか…。
登場人物の心理の動きや複雑な利害や駆引のおもしろさを楽しむというより、淡々と荒筋を追っているだけ、というか…。
歴史を知らない人が「流れをつかむ」には良いかもしれませんが、私のようにストーリーは知っているから「(タイトルにもある)小説」をたのしみたい、という方には向きません。
私は「小説」というタイトルに魅かれて購入しましたので、荒筋を追っているだけの本書に落胆させられました。
陳舜臣氏のネームバリューに期待して、全巻揃えてから読み始めましたが、途中で読むのをヤメてしまいました。
歴史と小説の最高のバランス
★★★★★
言わずとしれた陳舜臣氏の名著。新カバーの新書がでて大分経つが、最近になってまとめ買い。一気に再読した。
「歴史は繋がっている」というのは当たり前の話であるが、大衆歴史小説はどうしてもその人物に入れ込みすぎて視野が狭くなる。
本書は中国の長いダイナミックな歴史の流れをその時代、時代の人物を描きながらも、繋がった史実として見事に表現している。もちろん、取り上げられる人物や事件は関心のあることが多くなるが、それでも、歴史の継続性や関連性を損なわずになおかつ、娯楽小説として描くというのは相当な力技と思える。
「三国志」や「項羽と劉邦」の時代に詳しい人がどれだけ商・周・東周・春秋戦国・秦・前漢・新・後漢・魏・呉・蜀・西晋・東晋・・と言えるだろうか。本書の読者は繋がった中国の歴史を娯楽として味わうことができる。同時に知らなかった中国の歴史の奥行きに新しい好奇心を触発されることは疑いない。
・・・推薦文みたいになりましたが、お薦めです。
オモシロ小説
★★★★★
私がこの小説を手に取ったのは、横山光輝の「三国志」以降、あの英雄たちの末路は?と軽く興味を持ったことから。
その後の悲惨な歴史から近代まで、それ以前の殷王朝の崩壊や周王朝の成立、春秋戦国など楽しく読めました。
語り口も軽妙で、非常に簡単に読める小説で、中学生くらいでも十分楽しめる、オモシロ小説です。
もし、お子さんがゲームでも漫画でも良いですから、三国志や春秋戦国といった戦国ものや歴史ものに興味を持ったら、プレゼントしてみてはいかがでしょうか。
ただ、これが常に正しい歴史の回答であるというわけではないので、いろいろな作品をお読みになることをお勧めします。
小説ですから美化されていることも多数ありますし、妲己が実は紂王を滅ぼす口実のため送り込まれたスパイであった、など、独自の珍解釈などもあり、逆に楽しくなります。
実際、3000年近くの前の事件に関わった人間の思い、人間関係など、もはやわからないのですから、どのようにでも解釈できます。
実際はとんでもないインチキ野郎でも後世の小説では英雄にされたり、誠実な人でもマキャベリみたいな陰謀家にされてしまうこともあるのですから。
だからこそいろいろなロマンチシズムあふれるドラマが書けるのです。
これを読んでおくと、とりあえず神話時代から近代までひとまわしできるので、必読といえます。
中国史の絶好の入門書
★★★★★
私は中国史の体系を、学校以外では、歴史家のマクロの視点では講談社現代新書の「新書東洋史・中国の歴史」シリーズ、そしてヒーロー・ヒロインたちの個々の言動はこの「小説十八史略」シリーズで主として学んだ。本シリーズは南宋滅亡までであるが、小説仕立ての生き生きとした語り口で中国史の主なエピソードを網羅しており、あまりの面白さに読み出したら止まらなくなること請け合いである。この第一巻は殷周革命から秦の始皇帝による中国統一及びその政治までを扱っているが、冒頭で、これから展開される中国史の様々なテーマを包含・暗示するものとして、神話を紹介している。さらに、別の章で、天道は是か非か、という史記を貫く大きなテーマを紹介している。これは本シリーズのテーマにも重なるといっていいだろう。善人・悪人が次々と登場して、中国史はまさに全人類史の実験場という感を強く持つ。だからこそ、中国史は現代の我々にとっても汲めど尽きない知恵と教訓の泉であり続けるのだろう。中国の特に古代史のファンとしては、この第一巻は2倍ぐらいの分量があってもいいのではないかと思うが、足りないと思う人は、例えば同じ作者による「中国の歴史(一)」、安能務氏の「春秋戦国誌」、宮城谷昌光氏の数多の小説等で補えばよいと思う。始皇帝(秦王政)の登場あたりからは、私には特に記載不足に感じられる点はありません。後はこの大河小説に安心して身を委ねることができるでしょう。なお、本シリーズの各巻はその時代の女性の服装をカバー絵に採用しており、中国女性の服装の変遷を知ることができる面白さがあります。
あくまで小説です
★★★★☆
非常に質の高い「歴史小説」です。
陳氏の深い知識に支えられた正確な大筋と時に混じる空想の部分とが渾然一体となって高い効果を挙げています。
あくまで小説です。その全てを信じてしまってはいけません。
不満があるとすれば共謀説がやたら多い所ですが、これは『秘本』以来のことですからしょうがないでしょうね。