銀色の竜たちがひっそりと暮らす谷間に、ある日、1匹のネズミが警告に訪れる。人間たちがダムを造るために、竜の谷を沈めてしまうというのだ。群れの長老は、天にとどくほどの高い山に囲まれた場所に「空の果て」という竜たちの故郷があることを告げる。それを聞いた若き竜ルングは、仲間たちの反対をよそに、「空の果て」を目指す決心をし、コロボックルのシュヴェーフェルフェルとともに旅立つ。最初の目的地ハンブルクでルングを待っていたのは、孤児の少年ベンとの運命的な出会いだった。
竜の谷の災いに象徴されるように、物語を覆うのは、人間がもたらした災厄の愚かしさである。その最たるものが、錬金術によって誕生した宿敵ネッセルブラントだ。その怪物に立ち向かうのは、竜をはじめ、コロボックル、魔神、ホムンクルス(人造人間)、巨大海ヘビである。馴染みのある想像上のモンスターたちと、人間の少年ベンが力を合わせる。そこには、人間自身が生み出した邪悪を打ち破るのもまた、人間の豊かな想像力と知恵であるという著者の力強いメッセージが込められている。(中島正敏)