Recorded at the Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey on June 10(#1-3)and June 16(#4),1965
Transition / formal the act or process of changing from one form or state to an other
1964年、「至上の愛」によって自己の音楽性の一つの頂点を極めたコルトレーンが哲学や理論によって構築された彫刻的とも言えるそのスタイルを破壊し、更なる高みへ歩を歩めた意欲作である。フリーあるいはアヴァンギャルドと形容される後期コルトレーンのカオスを思わせるサウンドはシーツ・オブ・サウンドと同じく理論の果てに生まれた表現であり、根拠を欠いたものでは決してない。
そして「破壊とは生産である。」という芸術におけるセオリーを最もよく体現し、成功した例、それが本作ではなかろうか。「至上の愛」でなく、この「トランジション」を最高傑作に挙げる声も多い。
本作のテーマとなる①はコルトレーンの新たな深淵を覗わせる内容。「至上の愛」を超えた上での恐るべき、そして静かな第一歩だ。「至上の愛」の面影を残しつつも随所にフリーを散りばめたモード・スタンダードな演奏。伝家の宝刀シーツ・オブ・サウンドは音数をぎりぎりまで削り、静寂さすら感じさせる。
スローテンポの②はマッコイ・タイナーの流麗なピアノがコルトレーンの豊かな叙情性を引き立てている。①と③を自然に繋ぐために極めて重要なパート。艶やかで典雅、息が漏れるほど美しい。
圧巻は③。5つのパートからなる組曲構成。その名もsuite(組曲)である。「至上の愛」をぐっとタイトに凝縮したような、あの究極の一枚の全てを、それでも半分とは行かないまでも1パート増やして21分にまとめている。
④は演奏日が違うこととドラムとサックスのコンビ編成ということもあって微妙に質感が違う。といってもクールダウンにぴったりだし、余韻にこういうものを聴くのも刺激があって楽しい。
とても欲張りで充実した内容を誇る作品である。コルトレーン漬けになる。