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水に眠る (文春文庫)

価格: ¥1
カテゴリ: 文庫
ブランド: 文藝春秋
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響きあう人々 ★★★★★
帯の惹句によれば「様々な愛の形を描く短編集」

この言葉に、当初、連城三紀彦風のミステリーを想像、期待して読み進めていき、
見事肩透かしを食ってしまった。

いわゆるオチがないのである。なんだかふわふわと取り留めのない、
およそあり得ない、ファンタジーのような、時には近未来小説のような…
そして宙ぶらりんなラスト。

あー、がっかりだと思いながら読み進めていったラス2の9編目、
「ものがたり」

ラスト2頁からのおそろしいまでの緊迫感。そして最後の一行…。
まさに心が震える。個人的には、ここ1年間、いや数年間で読んだ短編の中で、
掛け値なしに最高の傑作であった。

この1編だけで本作を買ったかいがあるというものだが、そこで思い直して、
再度他の小編を読み返してみると、おかしくて切ない話、心にさみしさが響く話、
冷え冷えと孤独が身に染みる話等々、味わい深い話が並んでいることがわかってくる。

北村薫はあとがきで、「これらは、人と人の、『と』に重きを置いて
書かれた物語なのである」としているが、私なりに言葉を置き換えてみると、
これらは、通じあう(響きあう)、あるいは通じる(響く)ことのない人と人との
幸福な、あるいは孤独な関係を、ときにはファンタジー風に、ときにはコミカルに、
ときにはSFチックにと、様々な形を用いて描いているように思える。

巻末の11人の解説陣による解説も豪華。その中で若竹七海が、
「上質の短編小説には無限の広がりがある」と書いているが、まったく同感。

本作でも「ものがたり」や「かとりせんこうはなび」、「恋愛小説」などでは、
かすかな手がかりを元に、背後に広がる世界や歴史について、読み手の想像を
掻き立てずにはおかない何かがある。

そして、我が意を得たりと感じたのは、御大、山口雅也が「ものがたり」について
書き記していること。

「短編ミステリの傑作−と、あえて言っておきたい。現代ミステリの成果を示す
アンソロジーが編まれる時、常に指定席を用意されるべき作品、と。」

充実できる短編集 ★★★★★
今まで北村薫の作品を7冊ほど読んできましたが、この本に収まっている短編はどの文体も内容も色も違います。山本文緒風味から星新一風味まで。北村薫ってこんなのも書けるんだとますます憧れてしまいました。
もちろん、その中にも北村薫の哀愁とかほのかに香る優しさ、感覚的だけど確かに分かる表現という色合いもちゃんと流れており、短編といえども充実した時間をくれます。

個人的に一番好きなのは北村薫らしい(と思う)、「かとりせんこうはなび」。最後に一組のカップルが交わす一言、二言の会話がこの話の全体を包み込み、二人の絆をピックアップしています。
表題作の「水に眠る」が一番好きですね ★★★★☆
この人の作品は初めて読む。アイデアが面白く、阿部公房的(例えば、かとりせんこうはなび)だったり、星新一的(例えば、くらげ、矢が三つ)だったりする。個人的に一番興味を惹かれたのは、表題作の「水に眠る」である。「そうそう、こういう感覚ってありますよね」と、思わず膝をうちたくなるような作品だ。「植物採集」における、主人公のやや屈折した感情。「はるか」における、屈託のなさ。「ものがたり」における、ほのかなエロティシズム。どの作品も、作者の詩的素養を感じさせるが、ストレートでない感情の表出がなかなか微妙で、複雑な余韻を残す。
幅広い才能を見せてくれる本 ★★★★★
単行本の初版は1994年、北村薫ファンの僕が何故か見逃してきた作品集だが、読んでよかった。北村薫の小説には時として「君達は人間として最低これだけの教養がなけれなばね」風のところがあって、正直読む気を失せさせることがある。しかし、この作品は文句のつけようが無い。全体に香りがあって均質なレベルの高さがある。

本には10の短編が収められ、それらを11名の人々が解説をする豪華な企画の文庫。解説陣では山口雅也、加納朋子、若竹七海の三人が特にいい。収録作品に推理小説はないが、恋愛小説から艶笑談風なもの、幻想小説、近未来の家族ものまでありバラエティに富んでいる。文に湿り気と品があって、何度でも読み直したくなる一冊だ。

「恋愛小説」の甘さ、「水に眠る」の思わずナイフを手にしたくなるような幻想味、「植物採集」の男と女の微妙な心理の綾、「はるか」の少女の心の美しさ、「ものがたり」の隠された情熱、「矢が三つ」の艶笑談ぎりぎりの、でも決してそうならない未来の家族と性のありようを描いたものなどどれをとっても見事。人間への洞察も含めて文句のつけるところが無い。

読んでいて連想したのが泡坂妻夫だ。二人とも年齢が高いというのも共通しているが、作品が圧倒的な教養に裏打ちされていて、駄作が少ないと言う点でも似ている。しかも、決して寡作ではない。もし違いがあるとすれば、今のところ北村には時代小説がないと言う点だけだろうか。もし、あの古典などの知識を駆使して、王朝談や室町、江戸ものを書いてもらえたら、そういう期待を抱かせる幅広い才能を見せてくれる本。それにしても表題作の世界はしゃれた深みがあって、フランス音楽を思わせる。

充実した短編集 ★★★★★
アマゾンコムから宅急便で届いた本を興味半分に覗き、上司は呟いた。「なんだ恋愛小説か」私は猛然と抗議した。「イヤ、これは『恋愛小説』という名のサスペンスなんです」もちろんこれは恋愛小説の短編集ではない。しかし私の抗議は半分当たっていて、半分違っていた。

私の気に入った作品は次ぎの五点である。「植物採集」なんて切なく私を打ち据えることか。「くらげ」恐ろしい物語である。SF小説として秀逸。「かとりせんこうはなび」奇跡のようにやさしい女性の物語。「はるか」愛すべき少女。「ものがたり」解説の人も言っているように短編ミステリーの傑作である。……後10年もたてば、私が選ぶ作品も印象も変わっているに違いない。ともかく充実した短編集だ。