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まなざしのレッスン〈1〉西洋伝統絵画 (Liberal arts)

価格: ¥2,625
カテゴリ: 単行本
ブランド: 東京大学出版会
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   イメージの氾濫する現代において、「視覚の飽和状態」から抜け出し、感性を清新に保つには、むしろ視覚体験を能動的に実践することが必要なのではないか――こんな問題提起とともに始まる本書は、東京大学教養学部で行われた講義をもとに書き下ろされ、教科書の体裁をとった「実践的美術書」である。しかし、ここで主眼とされているのは西洋絵画の概説ではなく、鑑賞に役立つ知識や、具体的な絵の見方を示しながら、「最終的にあなた独自の絵の見方を作り上げるための、有効な土台となること」である。神話画における「アトリビュート(象徴物)」や、聖書の世界、絵画制作のシステムなど、作品理解のための「知的な手続き」は実に奥が深い。

   本書は14、15世紀から19世紀初めの西洋絵画を対象に、神話画、宗教画、風景画、静物画など主題別に12章からなり、各章は代表的作品の分析、ジャンル全体に対するポイント、「絵画の表現形式や受容のされ方に関する重要な視点」と明確に構成されている。章末の文献案内は読者の興味をさらに広げ、各章のトビラに記された簡単な概略と注目点は、レッスンへの心構えを整える心憎い配慮である。

   文章は、実際の講義に参加している気分になる口語体だが、絵画から受ける感動を的確な言葉で表現してくれる筆力は心地よさすら感じさせる。「絵を見る面白さ」を伝えようという著者の思いは全編を貫き、読後は美術館へ出かけて実物の絵と向き合いたくなるだろう。(林 ゆき)

名画をスルーして後悔しないために ★★★★★
日本では収集が印象派に偏重していて見かけることがさほど多くはないが、欧米の大きな美術館に行くと、印象派や現代とともに、それ以前に描かれた多くの絵画を目にする。展示室じゅうに同じような主題の作品が並んでいるのであるが、そのような絵がどのような背景をもっているのかがわからず、消化不良のまま美術館を後にした経験を持つ日本人は多いだろう。この本は、そのような、背景を知ることで絵画芸術の理解が一気に広がる時代・ジャンルの絵画を中心に講じたものである。

講義調で読みやすく、世界史の知識がなくても十分楽しむことができる。読書案内もついており発展性もある。もちろん、この本で得られた手がかりは、後の時代、あるいは異なるジャンルの絵画の鑑賞をも豊かなものにするに違いない。絵画を理解したいが、その対象が既に馴染みのある19世紀以降のものである人にとっては、一見満足な内容ではないだろうが、そのような人にこそ、うってつけかもしれない。惜しむらくは、図版が白黒なので必ずしも見やすいとはいえず、原題あるいは英語表記があればinternet上からカラー版を利用できるチャンスをいくらか小さくしてしまっていることくらいだろう。

昨年来日したルーブル美術館展などもそうであったように、来日する特別展には、この本で扱われているような作品が多く含まれている。たとえ、それを目的に見に行くわけではなくても、せっかくの名画を見るチャンスをむざむざと逸してしまっては勿体無いし、後でこの本に書かれているようなことを知って後悔しないためにも、一読をお勧めする。
分かりやすく、それでいて深い ★★★★☆
本書はいわゆる西洋絵画概論ではない。西洋絵画を観る面白さを理解するために、最低限必要な知識や、その後の「学び方」を概説するもの。

本書のスタンスと簡単なガイダンスの後は、「神話画」「宗教画」「寓意画」「肖像画」「風景画」「風俗画」「静物画」という具合に章立てされている。西洋絵画と神話、宗教は切り離すことができず、肖像、風景、静物画は全てそれらの派生として生まれてきたことも説明される。

絵画は自らの「主観」や「感性」こそ重要にすべきだという意見もあろう。しかし筆者は(既に無意識のうちに雑多な知識や先入観が本人にあるため)、もはや「視線」は本来決して「無垢ではない」という前提に立ち、「感性」も学ばれる余地のあること。他者の模倣から出発しない「独創的個性」は存在しないと主張する。図版が白黒で少ないことが少々残念だが、語り口は平易で非常に読みやすい。

通読するに、いかに私たちが美術的教養に対して無知であるか、さらには美術教育を含めて美術界は一面的なジャンルのみを精力的に紹介し、鑑賞者はそれを盲目的に受容してきたのではないかと疑念が沸く。

美術鑑賞を楽しむ準備体操 ★★★★★
 大学の教養学部で使われた内容を編纂したもの。絵画を見る方法は人それぞれでよく、絶対の解答などない。でも、背景知識を持っていれば、色々な見方ができて、倍も3倍も、、ずっと楽しめる「幅」と「深さ」が広がっていくはず。 
 
 著名の絵を題材にし、絵画の背景となるキリスト教の神話や物語、西洋史などを幅広く解説しています。
 美術鑑賞が好きな方に、一押しです。
理想的な入門書 ★★★★★
西洋美術に少しでも興味がある人なら必ず手に取るべき名著。あまりにも名著すぎて、東大駒場での三浦篤氏の授業に立ち見が出るようになってしまったという弊害も生んだ(氏のレポート採点は厳しいにもかかわらず)。かく言う自分も立ち見をしていた人間の一人である。

絵画を鑑賞するときに予備知識なんて必要ないと考えている方は、ぜひこの本の序文をお読みいただきたい。考え方ががらっと変わることだろう。なぜ絵画を見るためには知識が必要なのかを説いた後、絵画に関する基礎知識について概説する。登場する絵画も有名なものが多く、情報量も多すぎず少なすぎず適度。まさしく理想的な入門書であると言える。

絵画鑑賞のメソドロジー ★★★★★
 西洋絵画の「見方」に関して、ここまで緻密にそしてシステマティックに解説される作品も珍しい。各章一つ一つが講義として構成されており、その意味でも大学で美術史の講義を実際に受講したかのような錯覚が、印象として残りました。

 それもそのはずで、著者の三浦篤氏は東京大学は比較文学比較文化研究室の助教授をされており、その専門は「西洋近代美術史」と「比較芸術」ということ。

 各々の絵画について解説された本は多いですが、本著では絵画鑑賞のメソドロジーを読者に伝えることが主題とされており、着目すべき点、そして解釈の方向性についてとても具体的な説明がされています。特に各章にまとめられた10個の「視点」は、美術に関心があれば必ず覚えておくべき項目が整理されており必見。