心があったかくなります
★★★★☆
河合隼雄先生の子供時代の経験をもとに書かれたお話です。ユーモアにも富んでいて 読んでいて心がほんのりとあったかくなりました。家族の在り方・兄弟とのやりとり・遊び・学校生活・ご近所の話など色々なことが書かれてあります。子供が主人公なのに 話の中にちらちらと出てくる大人の存在感は際立っていて素敵だなと思いました。子供の命や人権が大切にされない報道が目につく今 大人が何回か読み返してもよい内容ではないかと思います。
子どもの気持ちを描いた作品
★★★★★
河合先生の遺作となった自伝的小説ということで、大変期待して読ませてもらいましたが、期待通りでした。分析的な解釈が物語に織り込まれているかと思っていたのですが、これは純粋な物語です。子どもの本心、成長が優しいタッチで描かれています。岡田知子さんの絵がまたよかったです。そして、最後の先生の奥様、谷川俊太郎の詩、など、最後のページまで読み応えがありました。河合先生が後世に残しておきたかったお話、なのでしょうか。子どもの心は、いつの世も変わらない、と伝えたかったのでしょうか。村上春樹氏も言っていますが、まだまだ、いろいろなことについて、先生の解釈を聞きたいと思い、残念に思います。
きっと春が来ますよね、河合先生…
★★★★★
執筆途中でお亡くなりになった、まさに最後の著書のようです。
河合先生の子どもの頃の家族構成、時代背景など、私が育ってきた時代とはずいぶん違いますので、
「そういうものかな」と想像で読むしかないところもありました。
自分の父母のすることを敬語で表すことなど、私はありませんでしたし。
でも、最後の最後にありがたい言葉が私を待っていてくれました。
…(前略)ハァちゃんにとって小学校四年生は、「冬の時代」だったかも知れない。(中略)しかし、
ハァちゃんは冬が去って春が来つつあるのを感じとっていた。「鶯でも鳴くんとちゃうやろか。」
そんな晴れやかな気持で庭の景色を眺めていた。
この数ヵ月いえもっと長いでしょうか、私の周囲で次々と思い悩むことが起き、私自身「冬の時代」を
感じずにはいられない状況にあります。
けれど、この「冬」の次には必ず「春」が来る、ゆっくりと春が近づいている、そう思わせていただく
ことができました。
大事に心に温めていきたいです。
隣のページに、お母さんの膝に顔を埋めて泣くハァちゃんを、お母さんが優しく撫でる絵があります。
大きくなった息子たちをこうして私の膝で泣かせてやることはもうできないけれど、心の中でそっと
見守ってやれたらと思っています。
子供に帰る、そして繋ぐ
★★★★☆
実質著者の遺作となったこの作品。この作品を書きながら天に召されたと思うと著者は何か感じていたのでしょうか。日本人のアイデンティティ、日本人の家庭のあり方を探し続けた著者の原点と生き様が、純粋な著者の懐古、心温まる挿絵、谷川俊太郎氏の送別の詞と相交わり一冊の本となっています。子供の童話であり大人の童話でもあります。
真実の河合隼雄
★★★★☆
ユング派の臨床心理学を紹介、日本に確立した河合隼雄氏。臨床心理士の育成、スクールカウンセラー導入、文化庁長官などの業績と多数の著作を残したが脳梗塞で倒れる直前まで婦人公論に連載されていた自伝的少年小説。河合4兄弟はつとに有名だが元々は6人兄弟だったとは。京都丹波篠山の裕福な歯科医の一家に生まれた主人公(ハァちゃん)の記憶は幼稚園までさかのぼり、主に戦前の小学校や家庭の出来事が鮮明に綴られる。兄弟の中でも非常に感受性が豊かで良心的で涙もろい性格がよく表現されている。古来、人生に深い洞察を加えられる人々は幼児期の記憶が鮮明であるらしい。臨床心理の実践に一生をかけた著者の原点を知る思いがする。