ヤクザの組長の娘を狂言誘拐!?
★★★★☆
夏休みに、先輩からたこ焼きの屋台を借りて
バイトをしていた下関の大学生・樽井翔太郎。
ある日、九州の門司港で営業していた翔太郎は、成り行きで、
ヤクザの組長の娘だという女子高生・花園絵里香と知り合う。
絵里香には、離れて暮らす離婚した母と、重病の妹がいるのだが、その妹
の手術費用を、父親である組長が援助することは期待できないのだという。
翔太郎と絵里香、そして翔太郎の先輩である甲本の三人は、手術費用を得るため、
絵里香を誘拐した態にして、組長から身代金をせしめる、狂言誘拐を行ったのだが……。
誘拐ミステリの最大の見せ場ともいえる、身代金受け渡しのハウダニットが秀逸。
現場のロケーションを活かすことによって心理的盲点を巧みにつくり出しています。
そして何より、そのトリックが、狂言誘拐の裏で秘かに進行して
いた事件の“仕込み”に過ぎなかった、という点に唸らされます。
狂言誘拐が終了した段階で発動するギミックとして、なかなかよくできています
(そのたくらみを見破るための手がかり――“海”という場ならではの――も巧妙)。
結末が尻切れトンボで、投げっぱなしで終わった点もいくつか目につきますが、
誘拐をテーマにしたユーモアミステリとして、十分楽しめる佳作だと思います。
とにかく
★★★★★
最初から最後まで笑わせていただきました。
と言ってもさりげないギャグが進みながらも中身はきちんと伏線が張られている立派な推理小説としても楽しめるという一冊で二度美味しい本です。
とにかく楽しみたいという人にはおススメ。
快調なロマンティック(?)ミステリ
★★★★☆
「とにかく最初の30頁だけでも立ち読みしてみて!」みたいな帯文句があるが、それだとゆるめのユーモアミステリとしか判断されないのではないだろうか。話はここまでは類型的だし。もしそこで迷っている人がいたら、ここからもっともっと面白くなりますと言ってあげたい。
ぐっと盛り上がってくるのはまさに30頁以降、視点が花園組サイドとのカットバックになってからで、身代金受渡しのトリックはシンプルで豪快、その後のツイストも鮮やかだ。特徴的なのは珍しく背景を実在地名で固めていることもあって、ロマンティックな映像効果が効いていること。真夜中の海峡が眼前に浮かぶようだ。それもあって、二組の男女をもう一刷毛だけ描きこんでおいたら余情とユーモアを兼ね備えた理想のミステリになったのになあと残念に思う。エピローグ抜きでスッパリ断ち切ったラストも生きただろうに(しかし実際こりゃ事件の収拾つけるだけであと1冊分かかりそうだが。超人的に的はずれな警部とか登場させたりして)。
肩の凝らない良質のエンタメ作品
★★★★☆
これも割りと面白かったかな。
なんていうか、
ところどころにギャグをちりばめ、
最後までクスリとさせることを忘れない作者のサービス精神に脱帽。
しかも時間のトリックも完璧で
なかなかの出来でした。
いたるところに張られた伏線も
しっかりと後で生きてくる。
サクサクっと読めるし、
肩も凝らないし、
エンターテイメント作品としてはいい作品でした。
が、が、
結局絵里香の妹の件はどうなったの?
そこが中途半端で
解決されてないし・・・。
警察にも追われていた翔太郎&絵里香はどうなるの?
事件の謎はしっかり解いているけど、
その背景が最後でぼやけてしまったのが残念でした。
何よりも皐月さん(絵里香の姉)のカッコよさが目立った作品でした。
『その後』も読みたかった
★★★★☆
ユーモアミステリ作家の贈る,ひさびさの書きおろし作品です.
特別におもしいろなにかがあったり,ギャグがあるわけではないのですが,
わざと『はずして』いるかのようなセンス,掛け合いに何度も笑わされます.
また,地方都市が舞台のため方言が多く,これも会話にいい味を与えています.
反面,この雰囲気が楽しめないようだと,「サムい」でおわってしまいそうです.
とはいえ,中盤以降はミステリの流れとなり,それまでのユーモアもしずかに.
決して派手さはなく,「やっぱりアレか」というところもあるにはあるのですが,
その『アレ』をはじめとし,何気ないところにあった伏線が拾われていくところは,
それまでのやり取りからはまるで想像もつかず,よい意味でまさかの展開になります.
ただ,『締め』がキレイ過ぎるというか,弱く感じてしまうのがなんとも残念で,
騒動のきっかけになったあることなど,いくつかが置かれたままの印象が残ります.
登場人物たちのその後など,エピローグ的なものが少しでもあればよかったような….
なお,単行本の扱いですがソフトカバーで,電車などでも読みやすくなっており,
また,ノンシリーズの作品なので,はじめての方にもおすすめの1冊だと思います.