苦い思い
★★★★☆
単行本(スコラ,1992年)→講談社文庫(1995年)→本書。
「柚木」シリーズの第2弾。
初期の樋口作品の、様々な要素が詰まったような一冊。高校時代の思い出、魅力的なヒロインたち、なぜかモテる主人公、ハードボイルドな文体、美しい女性の恐ろしい裏側。
樋口氏の小説をある程度は読み込んできた現在では、すっきりと作品のテーマが理解できる。この人が何を書きたいのか、どこに小説としての魅力があるのか、そういうことが分かるようになってきた。
それはズバリ、女性の魅力と恐さである。男性にとっての永遠のテーマだ。美しいけれども、本当は恐ろしい。でも惹き付けられる。そのあたりが「格好良く」描かれているのである。うーむ。
女性の樋口ファンは少ないんじゃないだろうか。
ミステリとしては粗が目立つ。結末は消化しきれていない印象。
謎解きも、軽口も大人の味?
★★★★☆
主人公柚木草平の軽口を期待して読んだら、今回はちょっとハズレだった気が。
やはり草平のキザなセリフが冴えるのは、輝くばかりに若い女の子を相手にしたときのようです。
20年前の初恋の人にからむ事件の解決だけに、登場人物の多くがそれなりの年配。
会話もしみじみしてしまいがちで、「チョイ悪」オヤジ(?)柚木草平に期待する軽妙さ、鋭さにかげりが。
その分、前作より謎解きが充実した印象。20年ぶりに出会う同級生たちと主人公の会話から、犯罪にいたる心理を読み取るのも、面白いかも。
全体に「現実的」な印象で、柚木草平には、やはり夢を見せてもらいたいところ・・・ですが、水産研究室の助手を務める「時間の手垢に汚れない」「面倒な性格」の美女・早川佳衣との掛け合いの楽しさが嬉しいので、星は4つ。
20年前の初恋だけに、甘くはない
★★★★☆
同じ初恋にさよなら・・・でも、10代ならば甘酸っぱい話になるだろう。
でも、今回のお話は、20年前の初恋に、別れを告げざるを得ない中年男の物語。
当然、ブラックコーヒーのように苦く、哀しいお話だ。
「事件にゃ強いが女にゃ弱い」雑誌記者柚木のシリーズ2作目。
上に書いたような事情で、前作に比べると、相当に暗い話になっている。
もちろん、前作同様に魅力的な女性陣とのセンスあふれる会話、皮肉っぽい主人公の独白など、読ませる部分は多い。
でも、その反面、主人公がやたらと内省的で、うじうじしているので、僕の好みからはちょっと外れていました。前作の軽妙洒脱で憎めない軽薄男だった主人公のほうが、魅力的でした。
(内省的でうじうじしているほうが、よりハードボイルドっぽいとも言えるので、こっちが好きな人もいるでしょうね)
主人公の生い立ちや若き日の暮らしぶりにスポットがあてられた作品なので、シリーズものである以上、キャラクターを理解する上で貴重な一冊ともいえるだろう。
このシリーズは今後も文庫化される予定なので、楽しみにしています。
さよなら初恋
★★★☆☆
シリーズ2作目です.
前作同様,主人公お得意のキザや皮肉な言葉回しは健在ですが,
登場人物の年齢層が高いため,その反応は年相応の落ち着いたもので,
モテる主人公が女性に振りまわされるようなコミカルなところは少なめ.
そのため,皮肉なども効き過ぎなようで,少しくどく感じるかもしれません.
また,魅力的な女性がウリのシリーズなのですが,
ヒロインについては主人公とのやり取りが少なめですし,
ほかの女性たちとの会話もあっさりな反応が多いせいか,
全体的にちょっと地味目な印象を受けました.
タイトルについては,曖昧な感じだった前作に比べるとよくわかります.
ただ,それがなんともさびしいというか,胸の詰まるような気分です.
一応,1作目からの続きというかたちにはなっていますが,
物語自体は単独のため,ここからでも問題ないと思います.
ただ,主人公の過去などもあるので,できれば順番がよろしいかと.
中年探偵が、ちょっと甘く、苦い、青春時代の思い出を
★★★☆☆
38歳、離婚暦あり。警察を辞めて、ジャーナリストまがいの仕事をしている主人公。
スキー場で再会した、初恋の同級生が殺され、その犯人を捜すことに。殺された同級生の、高校時代からの仲良しグループの一人一人を訪ねて歩く主人公。その頃からの秘密、被害者やグループの一人一人の関係、想い、犯人は誰なのか、その動機は・・・。
筋は単純ですが、主人公の回想や思考に引きずり込まれ、一気に読みきりました。タイトルは、甘めですが、内容は、ハードボイルド、でも、甘さが滲み出る、そんな本でした。
登場人物も多くなく、大きな展開が沢山・・・という本ではないです。また、主人公の思考や行動と、登場人物達の描写が、いい塩梅で書かれているためか、非常に読みやすく、楽しめる本です。
主人公の過去も少し明かされ、シリーズものの中で、はずせない一冊です。
10歳になる娘との掛け合いや、気の利いた台詞なども、前作に続き、楽しいものでした。